信子さんは堪えきれなくなったように、袖で何度も目元を拭われた。
父や母のことも、私を虐げた継母や百合のことも——きっと忘れることはできないだろう。
思い出すたび胸の奥底に溜まった黒く濁った澱が騒ぎ、消えることのない傷が、鈍く疼く。
「……恐れ多いこととは存じますが……私は、ずっとすみれ様のことを、本当の妹のように思っておりました」
「そんな、謝らないでくださいっ!私の方こそ……ずっと、信子さんのことを、実の姉のように……」
信子さんには、故郷に私と同じ年頃の妹さんがいるとおっしゃっていた。
それでも——幼い頃から朝霞家の中で唯一、私に一欠片の情を注ぎ、助けてくれたのは信子さんだった。
『いつか……お嬢様を心から大切にしてくれる方が、きっと現れます……!』
あのとき、信子さんがかけてくれた言葉。
呪いのようだと思ったこともあった。
叶わない希望を抱かされるほど、日々が残酷になるから。
けれど今なら分かる。あの言葉は、信子さんの祈りだったのだと。
その祈りが、私を暁臣様に出会う日まで繋いでくれた。
ずっと堪えていた涙が、ぽろり、ぽろりと溢れ出してきた。
せっかく化粧を直してもらったのに。
この高価なドレスを汚してはいけない。
止めなければと思えば思うほど、感情は堰を切ったように溢れ、止まらなくなる。
喉の奥が詰まり、言葉が震えて途切れる。
「ふふ。すみれ様、そんなに泣いてしまっては、外でお待ちの殿下が心配されてしまいます」
「ごめ……ごめんなさい、信子さん。涙が、止まらなくて……」
今もなお、あの蔵での孤独な日々は、私の中に深い傷跡として刻まれている。
けれど、もう大丈夫。——たぶん。
傷はいずれ瘡蓋となり、やがて自然に剥がれ落ちる。
ときにはまた同じ場所から血が滲む夜もあるかもしれない。
それでも何度でも瘡蓋を作って、慈しみの手で覆っていけば、いつかきっと跡形もなく綺麗になる日が来る。
そう信じたい。信じてみたい。
「信子さんがそばにいてくれたこと……本当に、嬉しいです。ありがとうございます」
私はヴェール越しに、世界で一番優しい義理の姉へ、心からの微笑みを向けた。
信子さんの指先が、そっと私の頬の涙を拭ってくれる。
父や母のことも、私を虐げた継母や百合のことも——きっと忘れることはできないだろう。
思い出すたび胸の奥底に溜まった黒く濁った澱が騒ぎ、消えることのない傷が、鈍く疼く。
「……恐れ多いこととは存じますが……私は、ずっとすみれ様のことを、本当の妹のように思っておりました」
「そんな、謝らないでくださいっ!私の方こそ……ずっと、信子さんのことを、実の姉のように……」
信子さんには、故郷に私と同じ年頃の妹さんがいるとおっしゃっていた。
それでも——幼い頃から朝霞家の中で唯一、私に一欠片の情を注ぎ、助けてくれたのは信子さんだった。
『いつか……お嬢様を心から大切にしてくれる方が、きっと現れます……!』
あのとき、信子さんがかけてくれた言葉。
呪いのようだと思ったこともあった。
叶わない希望を抱かされるほど、日々が残酷になるから。
けれど今なら分かる。あの言葉は、信子さんの祈りだったのだと。
その祈りが、私を暁臣様に出会う日まで繋いでくれた。
ずっと堪えていた涙が、ぽろり、ぽろりと溢れ出してきた。
せっかく化粧を直してもらったのに。
この高価なドレスを汚してはいけない。
止めなければと思えば思うほど、感情は堰を切ったように溢れ、止まらなくなる。
喉の奥が詰まり、言葉が震えて途切れる。
「ふふ。すみれ様、そんなに泣いてしまっては、外でお待ちの殿下が心配されてしまいます」
「ごめ……ごめんなさい、信子さん。涙が、止まらなくて……」
今もなお、あの蔵での孤独な日々は、私の中に深い傷跡として刻まれている。
けれど、もう大丈夫。——たぶん。
傷はいずれ瘡蓋となり、やがて自然に剥がれ落ちる。
ときにはまた同じ場所から血が滲む夜もあるかもしれない。
それでも何度でも瘡蓋を作って、慈しみの手で覆っていけば、いつかきっと跡形もなく綺麗になる日が来る。
そう信じたい。信じてみたい。
「信子さんがそばにいてくれたこと……本当に、嬉しいです。ありがとうございます」
私はヴェール越しに、世界で一番優しい義理の姉へ、心からの微笑みを向けた。
信子さんの指先が、そっと私の頬の涙を拭ってくれる。



