一瞬だけ。
背筋が凍るような鋭い視線が、どこからか絡みついた気がした。
少し離れた場所。着飾った人々の列の向こう。
確かめる暇もなく、すぐに招待客の影に遮られて見失ってしまったけれど。
胸が、きゅっと音を立てて鳴る。
呼吸が一拍、遅れる。
祝宴は、止まった時計の針が動き出すように滞りなく進んでいく。
誰と何を話したのか。
どのような高貴な方々に挨拶をしたのか。
後から懸命に思い返しても、霧の向こうの出来事のようにほとんど覚えていない。
ただ、鉛のような疲労と、幸福に終わりゆく時間だけが、静かに、確実に積み重なっていく。
頷いて、笑って、杯を受けて——その繰り返し。
お色直しの合図がかかり、今度は艶やかな色打掛に着替えさせられた。
白という『無』から、十二単とはまた違った深い深紅へ。
鏡の中に映る自分は、朝の怯えていた私とはまるで別の生き物のように見えた。
息を吸うと、胸の奥が強く鳴る。……強くなったのではない。強く見せられている。
再び暁臣様が待つ会場へと戻る。
無意識のうちに、先ほど強烈な視線を感じた場所を探してしまっていた。
見つけたくないのに、確かめたくて。
——けれど、そこには穏やかに微笑む綾乃様のお姿があるだけ。
どこを探しても、あの焦燥を煽るような気配はもう、感じられない。
……ああ。胸の奥で、すとん、と何かが落ちる音がした。
きっと、それでいいのだ。
きっと、それが——東宮殿下が下した、彼なりの答えなのだ。
これ以上、私の心からは何も奪わない。
これ以上、私に絶望も希望も与えない。
そうして彼は、私を『暁臣様の妻』として切り離したのだと……。
冷たいようで、ひどく公平な線引き。
背筋が凍るような鋭い視線が、どこからか絡みついた気がした。
少し離れた場所。着飾った人々の列の向こう。
確かめる暇もなく、すぐに招待客の影に遮られて見失ってしまったけれど。
胸が、きゅっと音を立てて鳴る。
呼吸が一拍、遅れる。
祝宴は、止まった時計の針が動き出すように滞りなく進んでいく。
誰と何を話したのか。
どのような高貴な方々に挨拶をしたのか。
後から懸命に思い返しても、霧の向こうの出来事のようにほとんど覚えていない。
ただ、鉛のような疲労と、幸福に終わりゆく時間だけが、静かに、確実に積み重なっていく。
頷いて、笑って、杯を受けて——その繰り返し。
お色直しの合図がかかり、今度は艶やかな色打掛に着替えさせられた。
白という『無』から、十二単とはまた違った深い深紅へ。
鏡の中に映る自分は、朝の怯えていた私とはまるで別の生き物のように見えた。
息を吸うと、胸の奥が強く鳴る。……強くなったのではない。強く見せられている。
再び暁臣様が待つ会場へと戻る。
無意識のうちに、先ほど強烈な視線を感じた場所を探してしまっていた。
見つけたくないのに、確かめたくて。
——けれど、そこには穏やかに微笑む綾乃様のお姿があるだけ。
どこを探しても、あの焦燥を煽るような気配はもう、感じられない。
……ああ。胸の奥で、すとん、と何かが落ちる音がした。
きっと、それでいいのだ。
きっと、それが——東宮殿下が下した、彼なりの答えなのだ。
これ以上、私の心からは何も奪わない。
これ以上、私に絶望も希望も与えない。
そうして彼は、私を『暁臣様の妻』として切り離したのだと……。
冷たいようで、ひどく公平な線引き。



