信子さんの声に甘え、私は言われるままに座り込み、大きく肩で息をした。
瞼を閉じると、廊下の気配まで遠のく。
ほんの少し、暁臣様と離されてしまっただけで、肌寒いような心細さが胸をかすめた。
馬鹿みたいだ。……でも、戻りたい。
今度は、白無垢。
清廉な真っ白な布に包み込まれると、先ほどまでの重力が嘘のように感じられた。
けれど衣装は軽いはずなのに、私の身体の芯には、見えない重石がずっと置かれたままのように重たい。
軽さに慣れないせいで、逆に足元が頼りない。
祝宴の会場へと向かう途中。
近づくにつれ、人の気配が濃くなり、華やいだ声や音が鼓膜を叩く。
盛大な拍手。
上等な絹が擦れる音。
乾杯を告げる、杯が触れ合う澄んだ音。
私はただ、隣を歩く暁臣様の頼もしい歩幅から遅れぬよう、必死についていくだけで精一杯になる。
視界の端々には、想像を絶するほど多くの方々の姿。
そして、そのすべての視線が一斉に私へ注がれているという事実。
『無華』の証である、この左右で違う瞳を見られてしまう……。
ただ人が多いだけの場所ではない。
ここにいる全員が、朝霞家が隠し続けてきた『出来損ない』の瞳を見ようとしている。
その恐怖に、思わず目を閉じ、顔を伏せたい衝動に駆られた。
喉の奥がきゅっと縮む。
「すみれ」
不意に、耳元に低く優しい暁臣様の声が降ってきた。
背の高い彼を見つめるために、私は自然と顔を上げる。
そうすることで、俯かずに前を向けた。
目を逸らさずに済む。——あの方が、そうさせてくれる。
「白無垢を纏った今のすみれを、俺が独り占めできないのが、どうしようもなく残念だ」
「……っ、暁臣様……」
「今すぐにでも、このままお連れ帰って、誰の目にも触れぬよう閉じ込めてしまいたくなるな」
独占欲の滲むその冗談に、強張っていた私の心は、不思議と少しだけ軽くなった。
笑ってはいけない場面だと分かっているのに、口元がほんの僅かに緩む。
暁臣様がいる。だから、歩ける。
——そのとき。
瞼を閉じると、廊下の気配まで遠のく。
ほんの少し、暁臣様と離されてしまっただけで、肌寒いような心細さが胸をかすめた。
馬鹿みたいだ。……でも、戻りたい。
今度は、白無垢。
清廉な真っ白な布に包み込まれると、先ほどまでの重力が嘘のように感じられた。
けれど衣装は軽いはずなのに、私の身体の芯には、見えない重石がずっと置かれたままのように重たい。
軽さに慣れないせいで、逆に足元が頼りない。
祝宴の会場へと向かう途中。
近づくにつれ、人の気配が濃くなり、華やいだ声や音が鼓膜を叩く。
盛大な拍手。
上等な絹が擦れる音。
乾杯を告げる、杯が触れ合う澄んだ音。
私はただ、隣を歩く暁臣様の頼もしい歩幅から遅れぬよう、必死についていくだけで精一杯になる。
視界の端々には、想像を絶するほど多くの方々の姿。
そして、そのすべての視線が一斉に私へ注がれているという事実。
『無華』の証である、この左右で違う瞳を見られてしまう……。
ただ人が多いだけの場所ではない。
ここにいる全員が、朝霞家が隠し続けてきた『出来損ない』の瞳を見ようとしている。
その恐怖に、思わず目を閉じ、顔を伏せたい衝動に駆られた。
喉の奥がきゅっと縮む。
「すみれ」
不意に、耳元に低く優しい暁臣様の声が降ってきた。
背の高い彼を見つめるために、私は自然と顔を上げる。
そうすることで、俯かずに前を向けた。
目を逸らさずに済む。——あの方が、そうさせてくれる。
「白無垢を纏った今のすみれを、俺が独り占めできないのが、どうしようもなく残念だ」
「……っ、暁臣様……」
「今すぐにでも、このままお連れ帰って、誰の目にも触れぬよう閉じ込めてしまいたくなるな」
独占欲の滲むその冗談に、強張っていた私の心は、不思議と少しだけ軽くなった。
笑ってはいけない場面だと分かっているのに、口元がほんの僅かに緩む。
暁臣様がいる。だから、歩ける。
——そのとき。



