感情が昂ぶるような演出も、誰かが大声で愛を宣言することもない。
ただ静かに、ときの層を積み重ねるように、一分一秒が流れていく。
そして訪れた終わりを告げる合図も、ひどく静かなものだった。
鈴の音が、最後に一度だけ長く鳴り響き、その清廉な余韻が杜の奥へと消えていく。
気がつくと、私の呼吸は少しだけ浅く、熱くなっていた。
——終わった、のだろうか。
それすら、自分でははっきり確信できない。
けれど。
胸の奥に、何かが、そっと優しく置かれたような不思議な感覚があった。
重いのに、痛くない。
ただ、静かに——私の中に座った。
重いのに、決して苦しくはないもの。
もし名をつけるなら、それはきっと——『約束』だ。
ゆっくりと顔を上げる。
木漏れ日となって差し込む秋の光が、私の紅い衣を眩しく照らしていた。
光の粒が、布の上で小さく跳ねるみたいに揺れる。
まだ、五条家の宮妃になったという実感はない。現実味も遠い。
それでも、あの透き通った祈りの音だけは、今も耳の奥で静かに鳴り続けていた。
しゃん……という余韻が、心臓の鼓動に重なる。
厳かな神前儀式が終わり、私は再び迷路のような廊下を通り、控えの間へと導かれた。
幾重にも重ねられた十二単を一枚、また一枚と解かれていく。
身体がふわりと、羽が生えたように軽くなる——はずだった。
けれど実際には、緊張の反動で全身の力が抜けすぎてしまい、畳の上に立っているのがやっとという有様だった。
ついさきほど誓いを立て、夫婦になったはずなのに、どこか遠い国の出来事のように現実味が薄い。
指先を見ても、何も変わっていないのに。
「お疲れでしょう。白湯を飲んでください」
「はい……ありがとうございます」
「次のお支度まで、少しだけ目を閉じて休んでくださいね」
ただ静かに、ときの層を積み重ねるように、一分一秒が流れていく。
そして訪れた終わりを告げる合図も、ひどく静かなものだった。
鈴の音が、最後に一度だけ長く鳴り響き、その清廉な余韻が杜の奥へと消えていく。
気がつくと、私の呼吸は少しだけ浅く、熱くなっていた。
——終わった、のだろうか。
それすら、自分でははっきり確信できない。
けれど。
胸の奥に、何かが、そっと優しく置かれたような不思議な感覚があった。
重いのに、痛くない。
ただ、静かに——私の中に座った。
重いのに、決して苦しくはないもの。
もし名をつけるなら、それはきっと——『約束』だ。
ゆっくりと顔を上げる。
木漏れ日となって差し込む秋の光が、私の紅い衣を眩しく照らしていた。
光の粒が、布の上で小さく跳ねるみたいに揺れる。
まだ、五条家の宮妃になったという実感はない。現実味も遠い。
それでも、あの透き通った祈りの音だけは、今も耳の奥で静かに鳴り続けていた。
しゃん……という余韻が、心臓の鼓動に重なる。
厳かな神前儀式が終わり、私は再び迷路のような廊下を通り、控えの間へと導かれた。
幾重にも重ねられた十二単を一枚、また一枚と解かれていく。
身体がふわりと、羽が生えたように軽くなる——はずだった。
けれど実際には、緊張の反動で全身の力が抜けすぎてしまい、畳の上に立っているのがやっとという有様だった。
ついさきほど誓いを立て、夫婦になったはずなのに、どこか遠い国の出来事のように現実味が薄い。
指先を見ても、何も変わっていないのに。
「お疲れでしょう。白湯を飲んでください」
「はい……ありがとうございます」
「次のお支度まで、少しだけ目を閉じて休んでくださいね」



