車を降り、一歩地面を踏みしめた瞬間、肌を撫でる空気が変わった。
ひんやりとして、どこまでも澄み渡り、俗世の音が遠くへ押し流されていく。
足元に敷き詰められた真っ白な玉砂利を踏む。
じゃり……という小さな音が、静寂の中でやけに大きく、鋭く響き渡った。
なんと、遠い所まできてしまったんだろう……。
その乾いた音に、ようやく自分の存在を現実へ繋ぎ止められた気がした。
息を吐く。吐いたはずなのに、胸の奥はまだ硬い。
周囲には多くの参列者が息を潜めているはずなのに、ざわめき一つ聞こえてこない。
注がれる無数の視線も、今はどこか遠い世界の出来事のように感じられる。
歩みを進めるたび、十二単の圧倒的な重みが身体を地上へと引き止めようとする。
一歩、また一歩。信子さんたちに支えられているはずなのに、心許なさが胸の隙間から這い上がってくる。
足の指先が、砂利の感触を探すみたいに強ばった。
教えられた通りの作法で、機械的に足を動かしている。
けれど心だけが置き去りにされ、身体だけが先に未来へ進んでいるような、奇妙な浮遊感があった。
自分が自分でなくなるような、薄いめまい。
——これから、一体何が起きるのか。
私に何が務まるのか。
真っ白になった頭の中を、不安の霧が覆い尽くそうとした、そのときだった。
しゃん……。
あまりに澄んだ音が、凛烈な空気を震わせた。
神職が振るう神楽鈴の音。
高く、細く、それでいて胸の奥深くまで染み込んでくるような、清らかな響きだった。
思わず深く息を吸い込む。冷たい空気が喉を通り、身体の芯まで降りていく。
神職の白い衣が擦れる微かな音。
玉砂利を一定のリズムで踏む、厳かな足音。
幾重もの布が揺れ、空気を動かす、かすかな気配。
そのすべてが恐ろしいほどに静かで、けれど逃げ場がないほど鮮明に私の五感を叩く。
静けさの中に、無数の『決まり』が立ち上がっている。
ひんやりとして、どこまでも澄み渡り、俗世の音が遠くへ押し流されていく。
足元に敷き詰められた真っ白な玉砂利を踏む。
じゃり……という小さな音が、静寂の中でやけに大きく、鋭く響き渡った。
なんと、遠い所まできてしまったんだろう……。
その乾いた音に、ようやく自分の存在を現実へ繋ぎ止められた気がした。
息を吐く。吐いたはずなのに、胸の奥はまだ硬い。
周囲には多くの参列者が息を潜めているはずなのに、ざわめき一つ聞こえてこない。
注がれる無数の視線も、今はどこか遠い世界の出来事のように感じられる。
歩みを進めるたび、十二単の圧倒的な重みが身体を地上へと引き止めようとする。
一歩、また一歩。信子さんたちに支えられているはずなのに、心許なさが胸の隙間から這い上がってくる。
足の指先が、砂利の感触を探すみたいに強ばった。
教えられた通りの作法で、機械的に足を動かしている。
けれど心だけが置き去りにされ、身体だけが先に未来へ進んでいるような、奇妙な浮遊感があった。
自分が自分でなくなるような、薄いめまい。
——これから、一体何が起きるのか。
私に何が務まるのか。
真っ白になった頭の中を、不安の霧が覆い尽くそうとした、そのときだった。
しゃん……。
あまりに澄んだ音が、凛烈な空気を震わせた。
神職が振るう神楽鈴の音。
高く、細く、それでいて胸の奥深くまで染み込んでくるような、清らかな響きだった。
思わず深く息を吸い込む。冷たい空気が喉を通り、身体の芯まで降りていく。
神職の白い衣が擦れる微かな音。
玉砂利を一定のリズムで踏む、厳かな足音。
幾重もの布が揺れ、空気を動かす、かすかな気配。
そのすべてが恐ろしいほどに静かで、けれど逃げ場がないほど鮮明に私の五感を叩く。
静けさの中に、無数の『決まり』が立ち上がっている。



