玄関先に姿を現したすみれを目にした瞬間、文字通り息を吞み、呼吸の仕方を忘れた。
肺が止まる。心臓だけが妙にうるさい。
——美しい。
だが、その一語では、あまりに足りない。
幾重にも重ねられた絹の色彩が、秋の柔らかな光を吸い込み、淡く艶めく。
その奥深い層が、彼女の輪郭を静かに——けれど神々しく浮かび上がらせていた。
色は洪水のようで、しかし決して騒がしくない。むしろ厳かだ。
その重厚な装束の中に立つすみれは、目を見張るほどに儚かった。
今にも折れてしまいそうで、風が吹けば消えてしまいそうな危うさ。
なのに彼女は、そこに揺るぎない確かな存在として立っている。
弱さではない。耐えている。あの重さの中で。
……見惚れている場合ではない。
そう己を律しようとするが、抗いようもなく視線が吸い寄せられる。
一度逸らせば戻れない気がして、結局、逸らせない。
自分に言い聞かせ、平静を取り戻すまでに、かなりの時間を要した。
「……随分と、重そうだな」
「……はい……とても……身動きが、取れないくらいです」
言葉を失った自分を誤魔化すように、絞り出したのはそんな何気ない一言だった。
本当は、今すぐにでも触れたくて仕方がない。
その細い肩を支え、腕の中に抱き寄せたい。
だが今ここで私情を露わにすれば、この神聖な瞬間が俺個人の悦びに成り下がってしまう。
今日は公の場だ。
すみれを『俺のもの』だと世に誇示する日ではない。
彼女を五条家の正妃、宮妃として正式に迎えるための儀式だ。
——そのために、俺は冷静でいなければならない。
「本当に……美しい。俺には、もったいないくらいだ」
囁くと、すみれの虹彩色の瞳がわずかに揺れた。
焦げ茶と紫。左右で異なる色が朝の光を鏡のように反射し、いつもより深く、神秘的に澄んで見える。
その一瞬だけで、胸の奥が焼ける。
……その目で、俺以外の男を見るな。
喉元までせり上がった独占欲を、強引に飲み込む。
代わりに差し出すのは、触れない誓いだ。
彼女のすぐ隣へ立ち、ただ呼吸の距離だけを守る。
肺が止まる。心臓だけが妙にうるさい。
——美しい。
だが、その一語では、あまりに足りない。
幾重にも重ねられた絹の色彩が、秋の柔らかな光を吸い込み、淡く艶めく。
その奥深い層が、彼女の輪郭を静かに——けれど神々しく浮かび上がらせていた。
色は洪水のようで、しかし決して騒がしくない。むしろ厳かだ。
その重厚な装束の中に立つすみれは、目を見張るほどに儚かった。
今にも折れてしまいそうで、風が吹けば消えてしまいそうな危うさ。
なのに彼女は、そこに揺るぎない確かな存在として立っている。
弱さではない。耐えている。あの重さの中で。
……見惚れている場合ではない。
そう己を律しようとするが、抗いようもなく視線が吸い寄せられる。
一度逸らせば戻れない気がして、結局、逸らせない。
自分に言い聞かせ、平静を取り戻すまでに、かなりの時間を要した。
「……随分と、重そうだな」
「……はい……とても……身動きが、取れないくらいです」
言葉を失った自分を誤魔化すように、絞り出したのはそんな何気ない一言だった。
本当は、今すぐにでも触れたくて仕方がない。
その細い肩を支え、腕の中に抱き寄せたい。
だが今ここで私情を露わにすれば、この神聖な瞬間が俺個人の悦びに成り下がってしまう。
今日は公の場だ。
すみれを『俺のもの』だと世に誇示する日ではない。
彼女を五条家の正妃、宮妃として正式に迎えるための儀式だ。
——そのために、俺は冷静でいなければならない。
「本当に……美しい。俺には、もったいないくらいだ」
囁くと、すみれの虹彩色の瞳がわずかに揺れた。
焦げ茶と紫。左右で異なる色が朝の光を鏡のように反射し、いつもより深く、神秘的に澄んで見える。
その一瞬だけで、胸の奥が焼ける。
……その目で、俺以外の男を見るな。
喉元までせり上がった独占欲を、強引に飲み込む。
代わりに差し出すのは、触れない誓いだ。
彼女のすぐ隣へ立ち、ただ呼吸の距離だけを守る。



