【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

「……随分と、重そうだな」
「……はい……とても……身動きが、取れないくらいです」

 冗談めかした声音を選んでくださっているのに、その目はちっとも笑っていなかった。
 私を茶化しているのではなく、ただ、真剣に見ている。
 あまりの圧倒的な美しさを前にして、私からはそんな、正直すぎる言葉しか出てこなかった。

 暁臣様が、私の方へ一歩、近づく。

 けれど、暁臣様は私に触れない。
 この完璧な装束を崩すことを恐れるように、ほんの少しだけ声を落として、私だけに聞こえるように囁いた。

「本当に……美しい。俺には、もったいないくらいだ」

 その言葉だけで、視界が滲み、胸がいっぱいになる。
 熱が喉の奥までせり上がって、返事ができない。
 今まで、私は何度もこの方に助けられ、支えられ、運ばれてきた。

 でも、今日だけは——
 この重さに耐え、自分の足で一歩ずつ、この方の元まで歩いてきたのだと。
 そう、初めて自分の誇りとして思える。
 小さく頷くのが精一杯で、それでも暁臣様は、きっと分かってくださった気がした。

「行こうか」

 暁臣様の力強い一言で、私は、ゆっくりと前を向く。

 もうこれまでの自分には戻れないという寂寥感よりも先に——
 ただ、生涯この人の隣にいるのだという事実だけが、心の中で確かな重石となっていた。
 怖さは消えない。けれど、支えになる重さなら、抱えていける。

 一歩、外へ踏み出すと、そこにはどこまでも澄み切った、祝福の青空があった。
 秋晴れの鮮やかな光が玄関先に降り注ぎ、私の纏う美しい衣を、優しく、そして誇らしげに照らし出していた。
 冷たい風が頬を撫で、私はその感触でようやく——今日が現実なのだと知った。