【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 雲一つない、秋晴れ。

 祝福のような空を一度だけ深く目に焼き付けてから、信子さんたちに導かれるまま畳の上へ座り直す。
 今日という一日が、私の運命をどう変えるのか——まだ、何も見えない。

 ただ。
 朝、暁臣様と並んで穏やかな食事ができたこと。
 あの手の温度と確かな感触だけが、消えない現実として胸の奥に残っていた。

 促されるまま、私は静まり返った和室の真ん中に正座する。
 背筋を伸ばしたつもりでも心許なく、広すぎる空間に気圧されそうになる。
 信子さんが背後に回り、藤波様と篠塚様が厳かな面持ちで視線を交わした。

「では……始めさせていただきますね。少々お体が重くなりますが、辛抱なさってください」

 その一言で、部屋の空気が張り詰めたものへと変わる。

 まず、素肌に近い所へ触れる最初の一枚。
 上質な絹の冷たさが、ひやりと露わな背中を撫でるように滑り落ちた。

「……ひゃっ……」
「すぐに、お嬢様の体温で馴染みますよ」

 思わず漏れた震え声に、藤波さんたちが少しだけクスクスと笑う。
 馴染むのだろうか、などと考える間もなく、次の一枚が重ねられた。

 さらに、その上に。
 また一枚。

 布が増えるたび、当たり前に動かせていた身体の自由が、じわじわと奪われていく。
 腕を少し上げ、ゆっくり下ろす。
 それだけで、もう鉛を背負ったように重い。

「……あ、こんなに……」

 言葉にした瞬間、胸が圧迫され、息が浅くなる。
 肩、背中、腰。
 経験したことのない重量が、確実に全身へ沈み込んでくる。
 もはや何枚目なのか、自分でも数えられなくなっていた。

 ただ——このままでは二度と立ち上がれなくなるのではないか、という奇妙な恐怖だけが、輪郭を持って迫る。

「すみれお嬢様。ゆっくり息を整えて。深く、吸い込んでください」