至近距離で囁かれた声に、息をすることすら忘れて固まってしまった。
今の私の顔は、抓った赤みなど比べものにならないほど、耳の付け根まで熱く染まっているに違いない。
そんな私を、暁臣様は隠そうともせず、愛おしげに、そしてどこか愉しそうに見つめていらっしゃる。
私のことを、こんなにも熱のこもった眼差しで見つめる人が、この世にいるなんて——。
やはり夢かもしれない。
けれど、もしこれが夢なのだとしたら、どうか一生、覚めないでほしい。
寝間着に着替え、灯りを落とした静かな自室。
布団に入っても、昂ぶった神経は一向に鎮まる気配を見せず、眠りは遠いままだ。
胸の奥が、凪ぐことのないさざ波のように、ずっとざわついている。
明日、私はあの方の妻になる。
正式に、暁臣様の隣に立つことが許される。
今日という日は、『朝霞すみれ』として過ごす、人生で最後の一夜。
夜が明ければ、私は文字通り生まれ変わり、『五条すみれ』として歩み始める。
宮家に嫁ぐということ。
それは、今の戸籍から除籍され、皇族という貴い身分に編入されることだと、教育係の藤波様から厳格に教えられた。
暁臣様と共に生きると決めた以上、避けては通れない、神聖で、そして重い儀式。
どこにも居場所のなかった『無華』の私が、過去の籍を失い、あの方の隣という新しい居場所を公に得る。
その重みは、想像の範疇を遥かに超えていて、考えれば考えるほど意識は冴え、眠気は遠のいていくばかりだった。
ふと、先ほど頬に触れた暁臣様の温かな掌と、柔らかな唇の感触を思い出す。
その確かな熱が、これまであの方が私に注いでくれた体温のすべてを、奔流のように呼び覚ましていく。
激しい雨の中。
耳を貫く雷の轟音。
私を離すまいと抱きしめてくれた腕の強さ。
そして、私を慈しむように触れてくれた、あの指先。
「……暁臣様……」
暗闇の中でその名を呼ぶだけで、胸の奥がじゅっと熱を帯び、強張っていた心が少しずつ解けていく。
怖い。確かに、怖い。
明日の向こう側にある未来に、不安がないと言えば嘘になる。
それでも、やはり明日が来てほしいと願ってしまう自分がいる。
私は布団の中で、自分の指先をぎゅっと握りしめ、静かに目を閉じた。
どうか、明日。
二人を裂くような、不吉な出来事が何も起きませんように。
——そして、あの方との間に築いてきたものを、何一つ失いませんように。
祈りというより、縋るような思いでそれを何度も心の中で繰り返しているうちに、ようやく、重たい微睡が私を浅い眠りへと誘っていった。
今の私の顔は、抓った赤みなど比べものにならないほど、耳の付け根まで熱く染まっているに違いない。
そんな私を、暁臣様は隠そうともせず、愛おしげに、そしてどこか愉しそうに見つめていらっしゃる。
私のことを、こんなにも熱のこもった眼差しで見つめる人が、この世にいるなんて——。
やはり夢かもしれない。
けれど、もしこれが夢なのだとしたら、どうか一生、覚めないでほしい。
寝間着に着替え、灯りを落とした静かな自室。
布団に入っても、昂ぶった神経は一向に鎮まる気配を見せず、眠りは遠いままだ。
胸の奥が、凪ぐことのないさざ波のように、ずっとざわついている。
明日、私はあの方の妻になる。
正式に、暁臣様の隣に立つことが許される。
今日という日は、『朝霞すみれ』として過ごす、人生で最後の一夜。
夜が明ければ、私は文字通り生まれ変わり、『五条すみれ』として歩み始める。
宮家に嫁ぐということ。
それは、今の戸籍から除籍され、皇族という貴い身分に編入されることだと、教育係の藤波様から厳格に教えられた。
暁臣様と共に生きると決めた以上、避けては通れない、神聖で、そして重い儀式。
どこにも居場所のなかった『無華』の私が、過去の籍を失い、あの方の隣という新しい居場所を公に得る。
その重みは、想像の範疇を遥かに超えていて、考えれば考えるほど意識は冴え、眠気は遠のいていくばかりだった。
ふと、先ほど頬に触れた暁臣様の温かな掌と、柔らかな唇の感触を思い出す。
その確かな熱が、これまであの方が私に注いでくれた体温のすべてを、奔流のように呼び覚ましていく。
激しい雨の中。
耳を貫く雷の轟音。
私を離すまいと抱きしめてくれた腕の強さ。
そして、私を慈しむように触れてくれた、あの指先。
「……暁臣様……」
暗闇の中でその名を呼ぶだけで、胸の奥がじゅっと熱を帯び、強張っていた心が少しずつ解けていく。
怖い。確かに、怖い。
明日の向こう側にある未来に、不安がないと言えば嘘になる。
それでも、やはり明日が来てほしいと願ってしまう自分がいる。
私は布団の中で、自分の指先をぎゅっと握りしめ、静かに目を閉じた。
どうか、明日。
二人を裂くような、不吉な出来事が何も起きませんように。
——そして、あの方との間に築いてきたものを、何一つ失いませんように。
祈りというより、縋るような思いでそれを何度も心の中で繰り返しているうちに、ようやく、重たい微睡が私を浅い眠りへと誘っていった。



