信子さんの穏やかな問いに、ふいに言葉が詰まった。
不安がないはずがない。明日という日が怖い。
何もかもが変わり果ててしまうような、未知の重圧。
けれど『怖い』と安易に口にした瞬間、積み上げてきた決意のすべてが、ガラス細工のように崩れてしまいそうでもあった。
私はずっと、あの仄暗い蔵の中で、何も選べずに生きてきた。
与えられた僅かばかりの食事を摂り、言われるがままに振る舞い、何も感じないふりをする。
それが、心を守る一番楽な方法だったから。
怖いと口にする前に、怖さごと消してしまう。そうやって生き延びてきた。
でも、今は違う。
暁臣様のそばにいることが、いつの間にか私にとって呼吸をするのと同じくらい、当たり前の幸せになってしまった。
あの方のいない未来を想像するだけで、肺が潰れるほど息が苦しくなる。
だからこそ、怖い。
この温もりを失うことが、何よりも怖い。
「……怖い、です……とても」
やっとの思いで絞り出した声は震えていて、あまりに小さかった。
それでも信子さんは驚くこともせず、ただ包み込むように深く頷いてくれた。
「そうですよね。怖くて当然です。生まれてきた環境を捨て、新しい名を得るのですから……でも、すみれお嬢様」
信子さんは決して強く言わない。
諭すのでも、背中を押すのでもなく、ただそっと傷ついた羽を撫でるように言葉を紡ぐ。
「殿下は……いつだって、すみれお嬢様のお気持ちを何よりいちばんに重んじてくださる方です。明日も、そしてこれからも。きっと、それは変わりませんよ」
その言葉が胸の奥に静かに沈み、固く結ばれていた塊が、少しだけ解けていくのを感じた。
怖さは消えない。
けれど、怖いままでも——私は、明日へ進める気がした。
不安がないはずがない。明日という日が怖い。
何もかもが変わり果ててしまうような、未知の重圧。
けれど『怖い』と安易に口にした瞬間、積み上げてきた決意のすべてが、ガラス細工のように崩れてしまいそうでもあった。
私はずっと、あの仄暗い蔵の中で、何も選べずに生きてきた。
与えられた僅かばかりの食事を摂り、言われるがままに振る舞い、何も感じないふりをする。
それが、心を守る一番楽な方法だったから。
怖いと口にする前に、怖さごと消してしまう。そうやって生き延びてきた。
でも、今は違う。
暁臣様のそばにいることが、いつの間にか私にとって呼吸をするのと同じくらい、当たり前の幸せになってしまった。
あの方のいない未来を想像するだけで、肺が潰れるほど息が苦しくなる。
だからこそ、怖い。
この温もりを失うことが、何よりも怖い。
「……怖い、です……とても」
やっとの思いで絞り出した声は震えていて、あまりに小さかった。
それでも信子さんは驚くこともせず、ただ包み込むように深く頷いてくれた。
「そうですよね。怖くて当然です。生まれてきた環境を捨て、新しい名を得るのですから……でも、すみれお嬢様」
信子さんは決して強く言わない。
諭すのでも、背中を押すのでもなく、ただそっと傷ついた羽を撫でるように言葉を紡ぐ。
「殿下は……いつだって、すみれお嬢様のお気持ちを何よりいちばんに重んじてくださる方です。明日も、そしてこれからも。きっと、それは変わりませんよ」
その言葉が胸の奥に静かに沈み、固く結ばれていた塊が、少しだけ解けていくのを感じた。
怖さは消えない。
けれど、怖いままでも——私は、明日へ進める気がした。



