【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 ベッドが小さく軋む音とともに、頭上から低く柔らかな声が降ってくる。

「……ぁ、暁臣、様……」

 恐る恐る顔を上げると、そこには、これまで見たことがないほど慈しみに満ち、それでいてどこか切なげな表情の暁臣様がいた。
 その優しさが、今の私にはかえって刃のように胸を刺す。

「っ……わ、私……あんな……他の殿方に……っ、抱きしめられてしまって……っ」
「……なんだ、そんなことを気にしていたのか」

 静かに、けれどきっぱりと告げられる。

「あんなものは事故のようなものだ。お前が気にする必要など、どこにもない」

 そう言うと同時に、布団が捲られ、抵抗する間もなく力強く抱き寄せられた。

 額に。
 頬に。
 濡れた瞼に。

 暁臣様の温かな唇が、祈るように、何度も何度も優しく触れる。

「泣かせたくないと思っているのに……俺は、その潤んだ美しい瞳に、どうしようもなく弱いんだ」

 痣の残る手首をそっと持ち上げられ、そこにも慈しむような口づけが落とされる。
 その触れ方はあまりにも尊く、私の存在そのものを肯定してくれるようで、胸の奥が熱く焦げ、余計に涙が止まらなくなってしまう。

「……こうして泣けるようになったことすら、今の俺には喜ばしい」

 確かに、以前の私は泣くことすら忘れていた。
 泣けば『うるさい』と殴られるだけの場所で、生きてきたから。

 暁臣様と出会ってから、私はどうしてしまったのだろう。
 十九年間、心の奥底に溜め込んできた涙を、すべて吐き出してしまうかのように、この方の胸を借りて何度も泣いている。

 腕の中に閉じ込められ、仄かに香る清涼な匂いに包まれていると、心に染み付いた毒が抜けていくのがわかった。

 ——ぐぅぅっ……。

「えっ……!?わ、わっ……」