【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 肌にまとわりつくような、ほんのり汗ばむ湿度を感じて、深い微睡の底からゆっくりと意識が浮上していく。
 窓の外では、まだ雨が降り続いているのだろう。
 部屋の中は薄暗く、湿り気を帯びた静寂が、柔らかな膜のように満ちていた。

 重たい瞼を持ち上げ、そっと視線を横へ向ける。
 ベッド脇の椅子に腰掛け、腕と足を組んだまま静かに目を閉じている暁臣様の姿が、すぐそこにあった。

 眠っていらっしゃるのだろうか。
 けれど、眉間には深く険しい皺が刻まれている。
 まるで眠りの中でも、なお私を守るために戦い続けているかのようで、胸がきゅっと締め付けられた。

 雨の中、泥濘に膝をついた所までは覚えている。
 あのあと、私はまた、この方の腕の中で意識を失ってしまったのだろう。
 身体を動かそうとして、ふと袖口から覗いた自分の手首に目が留まる。
 そこには、痛々しいほど鮮やかな赤い痣のような痕が残っていた。

 ——夢じゃ、ない。

 東宮殿下に無理やり腕を掴まれ、あの冷え冷えとした香りに包まれたこと。
 消そうとしても消えない現実を、私の肌が無言で訴えている。

「……っ……」

 暁臣様に背を向け、布団の中で小さく身を丸める。
 穢された。あんな恐ろしい方に触れられた私を、暁臣様はもう、汚らわしいと思って嫌いになられたかもしれない。

 そう考えた瞬間、堪えていたはずの涙が溢れ出し、枕を濡らしていく。
 声を殺して泣くたび、胸の奥が引き裂かれるように痛んだ。

 ——ごめんなさい……暁臣様、ごめんなさい……。

 この一年で、少しは変われたと思っていたのに。
 けれど結局、私はあの暗い蔵の中にいた頃と何も変わっていない。
 こうして一人で蹲り、震えることしかできないままだ。

「すみれ……なにを泣いているんだ?」