【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 震える暁臣様の声に、恐る恐る瞼を上げる。

 どうしたことだろう。
 抱き合った私たちの身体全体が、幻想的な紫色に発光しているように見えた。
 髪が強い静電気を帯び、重力から解き放たれたみたいにふわふわと中空を漂っている。

 その不思議な光は、やがて穏やかに——
 私の身体へ吸い込まれるように収束していった。

「馬鹿な……直撃したはずの雷が、消えた……?」
「……すみれ様……一体……」

 遠くで、呆然自失とした東宮殿下と綾乃様の震える呟きが、静まり返った庭園に落ちる。

 やがて荒れ狂った雷鳴が遠ざかるにつれ、辺りには湿った土の匂いと、焼け焦げたような微かな残香が漂い始めた。
 重く垂れ込めていた雲が涙を零すように、ポツリ、ポツリと冷たい雨が私の頬を濡らし始める。

「はぁ……はぁ……暁臣様……。お怪我は……ご無事ですか……?」
「……俺のことはいい。すみれ、お前こそ大丈夫なのか。どこか痛む所は」
「私は……大丈夫です。どこも、痛くありません……」
「そうか……ああ、良かった……」

 喉の奥から、絞り出すような安堵の声。
 暁臣様の震える掌が、私の頬へ伸びる。
 まるで無事を確かめる印みたいに、指先がそっとなぞった。

 その手は、いつも私を支えてくれる強固なものとは違う。
 僅かに、けれど確かに、恐怖の名残を宿しているように見えた。

「本当に、無事で良かった……すまない、すみれ」

 あのような……醜くも無様な所を見られてしまった。
 他の男に抱きすくめられ、暁臣様を絶望させるくらいなら——
 いっそ雷に打たれて死んでしまいたいとさえ願ったのに。
 こうして今、私は生きて、暁臣様の温かな腕の中にいる。

 胸の奥が、遅れてじわりと痛んだ。
 安堵と羞恥と、言い訳のつかない現実が、ぐしゃぐしゃに絡み合う。

「なぜだ……。なぜ、『黒薔薇』を、暁臣を選ぶ」

 背後から、地を這うような呪詛の声が響いた。