【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 どれほどの時間が経ったのだろう。
 出かけるからと朝から女中さんに丁寧に施してもらったお化粧は、もう跡形もない。
 ハンカチに色が移るほど泣きじゃくったせいで視界は重く、こめかみの辺りがズキズキと脈打つように痛む。

 ふと互いの無残な顔を見合わせて、綾乃様が「ふふっ」と吹き出す。
 それにつられるようにして、私も喉の奥で小さく笑ってしまった。

「……お互い、酷い顔ですわね」
「……はい……あ!でも、綾乃様はそれでもお美しいです……!」
「すみれ様こそ、泣き顔までそんなに可憐だなんて……ずるいですわ」

 そんなこと、あるわけがないのに。
 けれど綾乃様は見た目だけでなく、心根まで凛としてお美しい方なのだと、今さらのように痛感する。

「五条殿下をお待たせしてしまいましたわね。戻りましょう」
「はい」

 暁臣様……。
 一刻も早くあの方の姿を見て、息をつきたい。
 二人で庭園の静寂を抜け、来た道を戻ろうと歩み出した——そのとき。

「——でかした。よくやったよ、綾乃」

 背後から、聞き覚えのない冷ややかな声が落ちてきた。
 次の瞬間、見知らぬ香りに包まれ、後ろから強引に抱きすくめられる。

 覚えのない腕の圧。
 傲慢な声音。
 全身の毛穴が開くような戦慄が走り、喉が「ひゅっ」と引き攣った音を立てるのが自分でもわかった。

「……っ、あ……!?」