【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

「……すみれ」

 暁臣様が、私の名を呼ぶ。
 甘やかすでも、急かすでもない。
 深い森の奥で響く水音のような、どこまでも穏やかで、私を肯定してくれる声。
 その音に引かれるように、固まっていた肩の力が少しだけほどける。

「迷うなら、俺が選んでも構わないか?」
「え……はい、ぜひ、お願いしてもよろしいでしょうか」

 すがるような思いで顔を上げると、暁臣様は反物の列に視線を向けた。
 それは、私を想う熱を帯びた、不思議な視線だった。
 視線が動くたびに、白がわずかに表情を変える。光が、息をするみたいに揺れる。

「花菱屋。すみれの肌に最も映える白は、どれだ」
「はい。僭越ながら——わたくしの見立てでは、こちらでございます」

 主人が恭しく差し出したのは、先ほどまでの雪のような白とはわずかに異なる、柔らかな色味の反物。
 青みのない、温かな真珠の光を内側に閉じ込めたような。
 闇夜を優しく照らす月の光をそのまま布にしたような、静かな白だった。
 目が離せない。怖いのに、見てしまう。

「……これが、私に……?」
「そうだな。きっと似合う」

 喉の奥がきゅっと縮む。
 自分の名前を呼ばれたみたいに、その白がこちらを見返してくる気がした。
 暁臣様は短く応じ、手袋越しにそっと反物へ指を這わせた。
 厚みのある絹の生地は、ひやりとしていながら、暁臣様の視線があるせいか不思議と冷たくは感じなかった。
 むしろ、そこだけ温度がある。
 手袋越しでも伝わるほど、丁寧に扱ってくださっているのが分かる。

「白は、強い色だ。他の何にも染まらず、すべてを撥ね除ける。この白は、お前を消すためのものじゃない。——すみれ、お前を守るための白を選べ」