「……すみれ」
暁臣様が、私の名を呼ぶ。
甘やかすでも、急かすでもない。
深い森の奥で響く水音のような、どこまでも穏やかで、私を肯定してくれる声。
その音に引かれるように、固まっていた肩の力が少しだけほどける。
「迷うなら、俺が選んでも構わないか?」
「え……はい、ぜひ、お願いしてもよろしいでしょうか」
すがるような思いで顔を上げると、暁臣様は反物の列に視線を向けた。
それは、私を想う熱を帯びた、不思議な視線だった。
視線が動くたびに、白がわずかに表情を変える。光が、息をするみたいに揺れる。
「花菱屋。すみれの肌に最も映える白は、どれだ」
「はい。僭越ながら——わたくしの見立てでは、こちらでございます」
主人が恭しく差し出したのは、先ほどまでの雪のような白とはわずかに異なる、柔らかな色味の反物。
青みのない、温かな真珠の光を内側に閉じ込めたような。
闇夜を優しく照らす月の光をそのまま布にしたような、静かな白だった。
目が離せない。怖いのに、見てしまう。
「……これが、私に……?」
「そうだな。きっと似合う」
喉の奥がきゅっと縮む。
自分の名前を呼ばれたみたいに、その白がこちらを見返してくる気がした。
暁臣様は短く応じ、手袋越しにそっと反物へ指を這わせた。
厚みのある絹の生地は、ひやりとしていながら、暁臣様の視線があるせいか不思議と冷たくは感じなかった。
むしろ、そこだけ温度がある。
手袋越しでも伝わるほど、丁寧に扱ってくださっているのが分かる。
「白は、強い色だ。他の何にも染まらず、すべてを撥ね除ける。この白は、お前を消すためのものじゃない。——すみれ、お前を守るための白を選べ」
暁臣様が、私の名を呼ぶ。
甘やかすでも、急かすでもない。
深い森の奥で響く水音のような、どこまでも穏やかで、私を肯定してくれる声。
その音に引かれるように、固まっていた肩の力が少しだけほどける。
「迷うなら、俺が選んでも構わないか?」
「え……はい、ぜひ、お願いしてもよろしいでしょうか」
すがるような思いで顔を上げると、暁臣様は反物の列に視線を向けた。
それは、私を想う熱を帯びた、不思議な視線だった。
視線が動くたびに、白がわずかに表情を変える。光が、息をするみたいに揺れる。
「花菱屋。すみれの肌に最も映える白は、どれだ」
「はい。僭越ながら——わたくしの見立てでは、こちらでございます」
主人が恭しく差し出したのは、先ほどまでの雪のような白とはわずかに異なる、柔らかな色味の反物。
青みのない、温かな真珠の光を内側に閉じ込めたような。
闇夜を優しく照らす月の光をそのまま布にしたような、静かな白だった。
目が離せない。怖いのに、見てしまう。
「……これが、私に……?」
「そうだな。きっと似合う」
喉の奥がきゅっと縮む。
自分の名前を呼ばれたみたいに、その白がこちらを見返してくる気がした。
暁臣様は短く応じ、手袋越しにそっと反物へ指を這わせた。
厚みのある絹の生地は、ひやりとしていながら、暁臣様の視線があるせいか不思議と冷たくは感じなかった。
むしろ、そこだけ温度がある。
手袋越しでも伝わるほど、丁寧に扱ってくださっているのが分かる。
「白は、強い色だ。他の何にも染まらず、すべてを撥ね除ける。この白は、お前を消すためのものじゃない。——すみれ、お前を守るための白を選べ」



