【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 朝の光はどこまでも柔らかなのに、私の胸の奥だけは、凪ぐことのないさざ波が立ち続けている。
 窓辺に差し込む白い光は穏やかで、昨日の出来事など何一つ知らない顔をしているのに。

 枕元の時計が、淡い音すら立てずに時間を刻んでいく。
 昨夜、私はきちんと眠れたのだろうか。
 それとも、覚醒と夢の狭間を行き来しながら、ただ目を閉じていただけなのか。
 考えようとすると、輪郭が曖昧になって、はっきり思い出せない。

 瞼を閉じれば、今も鮮やかな紫色の花が浮かぶ。
 藤棚の下。
 揺れる花房が落とす、複雑で繊細な影。
 あの場の空気まで、胸の奥に蘇ってくる。

 そして——。

 暁臣様の、熱を帯びた唇。

 頬に触れられた瞬間の、あの火照るような熱が、今も肌の奥に残っている気がしてならない。
 慈しむようでいて、どこか切迫した、追い詰められたような手つき。
 私を閉じ込めた腕の力は、これまでのどのときよりも強く、痛いほどだった。

「……昨日の、こと……」

 独り言のように零れた声は、静かな部屋に溶けて、何の答えも返さない。

 暁臣様と唇を重ねたのは、これで六度目。

 けれど、昨日の暁臣様は、どこかいつもと違って見えた。
 私が花に見惚れている間も、その視線は、私ではない何か——
 背後にある、遠い所にある何かを警戒しているようで。
 唇を寄せてくださったとき、その眼差しだけが、凍てつくように冷たく光っていた気がする。

 ——私が、何か不手際をしてしまったのかもしれない。

 そんなはずはない、と心の中で否定する。
 私はただ、咲き誇る藤を綺麗だと思い、暁臣様の温もりに身を委ね、そのお言葉に頷いただけだ。

 それなのに、胸のざわつきが、どうしても収まらない。