【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

「園遊会での着用は、できかねる」

 暁臣様の断固とした声が、使者の言葉を遮った。

「しかし……殿下直々のご指定にございます」
「後日、五条家より丁重なお礼状と共に、賜った品はすべて御所へお納めする。——今のすみれに、これほどの重責を負わせるわけにはいかない」

 暁臣様の大きな手が、私の固く握りしめた拳を包み込む。
 その温もりで、やっと息ができた。

「園遊会には白ではなく、すみれに一番似合う色で、俺の隣に立たせる」

 さっきまでの刃のような冷たさとは違う。
 いつもの、優しい響き。

「それに——彼女に純白を着せるのは、秋まで大切にとっておきたい」

 秋。
 暁臣様と一緒に選んだ、白無垢を纏う季節。
 不安の闇に、僅かな光が差し込むような心地がして、ようやく顔を上げられた。

「……すみれ様も、五条殿下と同じご意見でしょうか?」

 使者の鋭い視線が私を射抜く。
 大丈夫。言える。

 私は大きく息を吸い込み、逃げ出したくなる気持ちを押し込めて、まっすぐ前を見た。

「……はい。私も、暁臣様のお考えと同じでございます」

 掠れた声で、精一杯絞り出した一言。
 けれどそれは、紛れもなく私自身の心からの願い。

 東宮殿下からの贈り物を拒むことが、どれほど恐ろしいことなのか——私には想像もつかない。
 それでも私は、暁臣様からいただいた想いを、この身に纏いたい。

 使者を乗せた車が玄関先から遠ざかっていく。
 新緑が眩しい並木道。
 車の影が消えるまで、私は暁臣様の隣で、深く、深く頭を下げ続けた。

 ——どうしよう。園遊会が、怖い。
 日差しはこんなにも暖かいのに、指先だけが悴むほどに冷たい。
 そっと握られた暁臣様の掌の温もりだけを頼りに、新しい嵐の予感に震えていた。