……たった一日?
その一日のために、こんな美しい反物を使って、私なんかが着る白無垢を作るだなんて。
胸の奥がふわりと浮いて、同時に、底へ沈む。
喜びと怖さが、同じ所で絡まるみたいに。
「殿下の仰る通りです。すみれ様の透き通るような佇まいであれば、白無垢のほうが霞んでしまうのではないかと案じておりますよ」
花菱屋の主人の言葉に、私は慌てて首を振った。
否定の動きが大きくなりすぎて、髪が肩に触れてはらりと落ちる。
そんなはずはない。
きっと、馬子にも衣裳。白の輝きに、私の存在が飲み込まれてしまうだけだ。
——私が白をまとうのではなく、白に呑まれる。
そんな気がする。
それでも。
心の奥底では、暁臣様との婚儀が楽しみで、胸が震えるほど嬉しく思っている自分もいる。
恐怖よりも、彼の一部になれる喜びが、ほんの少しだけ上回ってしまうのだ。
ほんの半年前の私なら、ただ恐縮して縮こまっていたはずなのに。
暁臣様のそばにいるだけで、私は少しずつ、自分の心に素直になることを覚え始めていた。
……嬉しいと、言ってもいいのだと。期待しても、罰は当たらないのだと。
「す、すみません……どれも本当に美しすぎて……。私には、とても選べそうにありません……」
言い終えた途端、息が抜けた。
みっともないほど弱い声だった気がして、唇を噛む。
困り果てて絞り出すと、花菱屋の方が少しだけ困ったような微笑みを浮かべた。
「恐れ入ります。ですが、すみれ様。婚儀の白無垢は、お身体に合わせて誂える最高の一着でなければなりませんゆえ……」
分かっている。分かっているのに。
どの白を見ても、それが自分を否定しているような、あるいは試しているような気がして、伸ばしかけた指先が止まってしまう。
選ぶということは、白に触れるということ。
触れるということは、私がここにいていいと認めること。
——そんな資格が、本当に私にあるのだろうか。
その一日のために、こんな美しい反物を使って、私なんかが着る白無垢を作るだなんて。
胸の奥がふわりと浮いて、同時に、底へ沈む。
喜びと怖さが、同じ所で絡まるみたいに。
「殿下の仰る通りです。すみれ様の透き通るような佇まいであれば、白無垢のほうが霞んでしまうのではないかと案じておりますよ」
花菱屋の主人の言葉に、私は慌てて首を振った。
否定の動きが大きくなりすぎて、髪が肩に触れてはらりと落ちる。
そんなはずはない。
きっと、馬子にも衣裳。白の輝きに、私の存在が飲み込まれてしまうだけだ。
——私が白をまとうのではなく、白に呑まれる。
そんな気がする。
それでも。
心の奥底では、暁臣様との婚儀が楽しみで、胸が震えるほど嬉しく思っている自分もいる。
恐怖よりも、彼の一部になれる喜びが、ほんの少しだけ上回ってしまうのだ。
ほんの半年前の私なら、ただ恐縮して縮こまっていたはずなのに。
暁臣様のそばにいるだけで、私は少しずつ、自分の心に素直になることを覚え始めていた。
……嬉しいと、言ってもいいのだと。期待しても、罰は当たらないのだと。
「す、すみません……どれも本当に美しすぎて……。私には、とても選べそうにありません……」
言い終えた途端、息が抜けた。
みっともないほど弱い声だった気がして、唇を噛む。
困り果てて絞り出すと、花菱屋の方が少しだけ困ったような微笑みを浮かべた。
「恐れ入ります。ですが、すみれ様。婚儀の白無垢は、お身体に合わせて誂える最高の一着でなければなりませんゆえ……」
分かっている。分かっているのに。
どの白を見ても、それが自分を否定しているような、あるいは試しているような気がして、伸ばしかけた指先が止まってしまう。
選ぶということは、白に触れるということ。
触れるということは、私がここにいていいと認めること。
——そんな資格が、本当に私にあるのだろうか。



