『無華』として育ったあの娘は、何を見て、何を与えれば心を揺らすのか。
そして、唯一の誇りである『黒薔薇』の力までも奪われたとき、あの傲慢な暁臣は、どんな絶望の表情を晒すのだろう。
ふと、婚約者・綾乃の姿が脳裏をかすめる。
確か、園遊会で纏う予定の着物は、己の華である『牡丹』の色に合わせた、燃えるような深紅だったはずだ。
「暁臣家が贔屓にしている呉服店は……花菱屋、だったね」
正妻となるべき、正統な血筋と誇りを持つ綾乃。
そして今は暁臣の女でありながら、いずれ自分の手に堕ちる『無華』の娘。
赤と白。
対極の美を、自らの左右に並べて侍らせる光景を思い描き、恒一は微かに口角を上げた。
「白い振袖を誂えて、すみれに贈ろうか……彼女には白無垢を着せてやることはできないからね。せめてもの慈悲だ」
白無垢は、正妃である綾乃だけに許された特権。
だが、混じり気のない『白』こそが、あの幸薄い娘にはよく似合うだろう。
数度言葉を交わした印象からも、あの娘は感情を表に出す質ではない。
調査報告書を鑑みれば、従順で、扱いやすい性格であることは明白だった。
側室として、あるいは、秘密の愛妾として。
実に都合が良く、美しい道具。
「園遊会が楽しみだ……どのような趣向でもてなしてあげようか」
暁臣は、あの娘に何を与えているというのだろう。
あの男にできて、東宮である自分にできぬことなど、この世に存在しない。
両者の差など、所詮は『黒薔薇』か『黄薔薇』か——
天から与えられた色の違いに過ぎない。
望むものを与え、望むままに支配すれば、あの娘もやがて満足し、自ら跪くだろう。
「引き続き、調査を続けろ。あの娘が暁臣の前で見せる『綻び』の瞬間を、一つも見逃すな」
『黒薔薇』という理不尽な破壊の象徴さえ消し去ることができれば、もはやこの世に、東宮である自分に抗える『異能』は存在しない。
そのための鍵。
そのための『無華』。
自分以上に、あの娘を所有するに相応しい存在など、この世にいるはずがない。
恒一はそう確信し、冷え切った笑みを浮かべながら、
遠く迫る園遊会という名の狂乱に、静かに想いを馳せた。
そして、唯一の誇りである『黒薔薇』の力までも奪われたとき、あの傲慢な暁臣は、どんな絶望の表情を晒すのだろう。
ふと、婚約者・綾乃の姿が脳裏をかすめる。
確か、園遊会で纏う予定の着物は、己の華である『牡丹』の色に合わせた、燃えるような深紅だったはずだ。
「暁臣家が贔屓にしている呉服店は……花菱屋、だったね」
正妻となるべき、正統な血筋と誇りを持つ綾乃。
そして今は暁臣の女でありながら、いずれ自分の手に堕ちる『無華』の娘。
赤と白。
対極の美を、自らの左右に並べて侍らせる光景を思い描き、恒一は微かに口角を上げた。
「白い振袖を誂えて、すみれに贈ろうか……彼女には白無垢を着せてやることはできないからね。せめてもの慈悲だ」
白無垢は、正妃である綾乃だけに許された特権。
だが、混じり気のない『白』こそが、あの幸薄い娘にはよく似合うだろう。
数度言葉を交わした印象からも、あの娘は感情を表に出す質ではない。
調査報告書を鑑みれば、従順で、扱いやすい性格であることは明白だった。
側室として、あるいは、秘密の愛妾として。
実に都合が良く、美しい道具。
「園遊会が楽しみだ……どのような趣向でもてなしてあげようか」
暁臣は、あの娘に何を与えているというのだろう。
あの男にできて、東宮である自分にできぬことなど、この世に存在しない。
両者の差など、所詮は『黒薔薇』か『黄薔薇』か——
天から与えられた色の違いに過ぎない。
望むものを与え、望むままに支配すれば、あの娘もやがて満足し、自ら跪くだろう。
「引き続き、調査を続けろ。あの娘が暁臣の前で見せる『綻び』の瞬間を、一つも見逃すな」
『黒薔薇』という理不尽な破壊の象徴さえ消し去ることができれば、もはやこの世に、東宮である自分に抗える『異能』は存在しない。
そのための鍵。
そのための『無華』。
自分以上に、あの娘を所有するに相応しい存在など、この世にいるはずがない。
恒一はそう確信し、冷え切った笑みを浮かべながら、
遠く迫る園遊会という名の狂乱に、静かに想いを馳せた。



