【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 価値。
 その言葉に百合は陶酔した。『無華』の出来損ないの姉ではない。
 この自分に、この国で最も貴いお方が価値を見出してくださったのだ。

 恒一はゆったりと椅子に腰を下ろし、一分の隙もない穏やかな静けさで問いを重ねた。

「……君が言った、触れている間、『異能』が消えるという点だが……それは、五条暁臣のあの破壊の力も、同じように消し去ると思うかな?」

 百合は息を呑んだ。
 殿下が、あの自分を選ばなかった男のことを——姉のことを、尋ねている。
 ——いける。これで、あの二人を引き離せる。

「消えますわ。間違いございません」

 百合は確信に満ちたふりをして、断言した。

「姉のあの忌まわしい肌に触れさせれば、どんな『異能』でも……たとえ『王華』の力であっても、きっと消えてしまいますわ」
「……なるほど。それは、興味深いね」

 恒一の瞳が、獲物を定めた蛇のように、ほんの僅かに細くなる。

 ——それだけで、彼は十分だった。
 去り際、恒一は百合の耳元へ、甘い毒を流し込むように囁いた。

「今日のことは、私と君だけの秘密だよ……君の身を守るために、ね。いいかい?」

 守る。
 百合は熱烈な多幸感に浸りながら、何度も力強く頷いた。
 姉ではなく、自分こそがついにこの方に守られる側の主役に返り咲いたのだと、露ほども疑わずに。

「はい……殿下……。わたくし、誰にも……」

 重厚な扉が閉まった後、百合は自分の指先が脈打つほど熱くなっていることに気づいた。
 ようやく、自分の真実の人生が始まった。

 目の前が開けていく。
 二度とここに立ち入れることはない——
 そんな結末が待ち受けていることなど、彼女の頭には微塵もなかった。