【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 この世界で価値がないとされる『無華』。
 それこそが、最強の破壊の力を無効化し、暁臣を『人間』として繋ぎ止めている唯一の鍵なのだとしたら。
 暁臣に与えられた救いは、『王華』でも『双蕊』でもない。
 ただ、価値がないと切り捨てられたはずの——あの娘。

「……暁臣の婚約者の素性を、至急洗え。可能な限り、すべてだ」

 左右で色の違う瞳。
 その視界に自分が映り込んだとき、一体どのような反応を見せるのか。
 怯えるのか。縋るのか。暁臣と同じように、こちらを見上げて微笑むのか。
 恒一の心に、暁臣から『唯一の救い』を奪い取りたいという、どす黒い渇望が鎌首をもたげた。
 奪うだけでは足りない。

 ——自分のものにして、五条に見せつけたい。

 机の上に置かれた一束の書類。
 東宮侍従課が極秘裏に作成したその報告書を、恒一は細長い指先で弄びながら、ゆっくりと頁を捲った。
 紙の擦れる音が、やけに大きく響く。
 次の頁には——おそらく、彼女の生き方が並んでいる。

『朝霞すみれに関する調査報告書』
 作成:東宮侍従課/情報係
 閲覧:東宮 恒一
 区分:内々(転記・持ち出し厳禁)

 一、対象者基礎情報 氏名:朝霞 すみれ(あさか すみれ)
 身分:朝霞伯爵家 長女(正妻の子)
 年齢:十九(推定。出生記録に一部不自然な空白あり)
 特徴:左右で瞳の色が異なる(右:紫/左:焦げ茶)
 備考:出生とき『無華』と発覚。『華』の加護未確認。
 幼少期より『無華』として、邸内の離れおよび蔵に幽閉同然の扱いを受けてきた形跡あり。

 二、家族構成
 父:朝霞伯爵。当主としての威厳に欠け、実権は後妻に委ねられている。
 実母:故人。伯爵の正妻。自死と記録されているが、当家内では禁句となっており、詳細な経緯は不明。
 継母:現伯爵夫人。対象者への虐待の主導的立場。
 妹:朝霞 百合(継母の子)。『赤薔薇』の加護を持ち、発火の『異能』を有していたが、現状は不明とされる。
 かつて五条暁臣の婚約者候補とされたが、現在は選定外。

 三、経緯・現状
 ・一年前、五条暁臣により『強引に』連れ出される形で、五条家別邸へ移送。
 ・以降、外部との接触を遮断した状態で、高度な妃教育を施されている形跡あり。
 ・今秋の婚儀に向け、五条家側は極めて迅速かつ秘密裏に準備を進行中。

 四、身体所見および特異性
 ・慢性的な栄養不足による重度の痩身。五条家移送後、徐々に回復。
 ・右目の『紫色』は、通常の人間には現れ得ない色彩であり、これが彼女の『無華』という特性、あるいは未知の力に関与している可能性を否定できない。
 ・五条暁臣(『黒薔薇』)との肉体接触が唯一成立する個体。

「——『無華』、か」