【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

「花菱屋でございます。この度はご婚儀の決定、誠におめでとうございます。一生に一度のめでたき日のご衣裳をお任せいただけますこと、職人一同、心より光栄に存じます」

 暁臣様が御贔屓にされている呉服店の主人が、恭しく頭を下げる。
 その言葉が部屋に落ちて、白の中へ吸い込まれていくみたいだった。

 これまでも暁臣様は、私に分不相応なほど美しい衣を何度も用意してくださった。
 けれど、この白無垢の反物は——それらとは『格』が違う。
 視線だけで、もう息が詰まる。

 ただの純白ではない。
 顔を近づければ、極細の糸で紡がれた鶴の羽ばたきや、咲き誇る花々の刺繍が、生地の凹凸となって浮かび上がっている。
 光の角度で、白の中に白が揺れる。静かなのに、圧倒される。

 美しいという言葉では足りない。
 そこには、職人の執念に近いほどの研鑽と、祈りにも似た真摯な想いが込められているのが分かる。
 ——この白は、祝福そのものだ。

『無華』で、何の色も持たない私なんかが。
 こんなにも神聖な『白』に触れることが許されるのだろうか。
 汚してしまわないか、指を伸ばすことすら躊躇われて、呼吸だけが浅くなる。

「どれもすみれに似合う……たった一日しか着せられないのが、惜しいほどだ」

 暁臣様の声は低く、淡々としているのに。
 その一言だけで、胸の奥がじんと熱くなった。

「……私、」と言いかけて、言葉がほどけた。
 見上げると、暁臣様の視線がまっすぐこちらに落ちている。
 逃げ場がないのに、怖くない。