【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 すみれの『無華』という特性。
 その実、すみれ固有の『異能』を無害化する異質な力であること。
 その事実を知る者は、厳重に管理されたごく一部の人間のみに限定していたはずだ。
 一体、どこから情報が漏れた。

「……以降、こういった無礼な贈り物は不要です。彼女には俺が最高のものを与える」
「それはすみれ自身が決めることだ……違うかな?」
「その言い草は、彼女に選択肢を与えていないように聞こえるが」
「気のせいだよ……ああ、春の園遊会で会えるのを楽しみにしている」

 今日の場は、すみれが体調を崩したとして欠席させた。
 だが、園遊会は陛下も父上も出席される公の場。
 よほどの事態でない限り、彼女を欠席させることは難しくなる。
 逃げ場の少なさが、腹の底を冷たく撫でていく。

「東宮殿下。本日の要件は済みましたので、失礼させていただきます」

 これ以上の対話は無意味だ。
 足早に車へと乗り込む。

 自宅へと向かう車中、窓の外を流れる雪景色を見つめながら、拳を固める。
 東宮のあの歪んだ思想。
 間違いなく、次の手を打ってくるはずだ。

 すみれが邸で待っていることは分かっている。
 それでも、一刻も早く彼女の顔を見て、その無事をこの手で確かめたいという焦燥が、胸を激しくかき乱した。
 ——今この瞬間にも、誰かの視線が彼女に伸びている気がして。

「お帰りなさいませ、暁臣様」

 玄関を入るなり耳に届いたのは、外の酷寒を忘れさせてくれるような、陽だまりのごとく温かなすみれの声。
 コートを脱ぐ間も惜しく、彼女を抱き寄せ、その細い肩に頭を預けた。
 花のように甘い匂いがして、ようやく肺に空気が戻る。

「早かったのですね……お昼、何か召し上がりますか?」
「……そうだな。その前に、少し部屋でゆっくりしよう」
「……はい」

 わずかに躊躇う声と、桃色に染まる頬。
 けれど、彼女は決して嫌がってはいない。
 最近は俺の言葉や視線の意味を理解し始めたのか、そのはにかむ表情には、抗いがたい艶が混ざるようになってきている。
 この愛おしい表情を、あの男に見せるなど、不快でならない。

 いっそこのまま、彼女のすべてを奪って、誰の手も届かない場所へ隠してしまいたい——。
 そんな衝動が湧き上がる。
 だが、今ここで無理に既成事実を作ることは、東宮に攻撃の隙を与えることになりかねない。
 俺が逸れば、すみれが矢面に立たされる。

 秋……婚儀を、いっそ早めることはできないだろうか。

 張り巡らされた権力という名の罠に抗うように、すみれの手を強く引き、自らの部屋へと招き入れた。
 そして扉を閉めると同時に、彼女を腕の中に閉じ込める。
 胸の鼓動が速い。すみれの体温が、そこだけを世界の中心に変えていく。