「今日は、愛らしい婚約者殿は連れてこなかったのか?」
挨拶すら交わす前に、開口一番に放たれたのはその問いだった。
——『愛らしい』など。他人の婚約者に向かい、よくも。
東宮殿下。従兄弟であるはずの男の、真意の読めない微笑。
今年に入ってからすでに三回目。異常なほど頻度を増した呼び出し。
その狙いがどこにあるのか、もはや疑う余地もなかった。
「東宮殿下。お召しにより参上いたしました」
「堅苦しいな。二人きりの場だ、もっと楽にしてもかまわないよ」
感情を押し殺したまま淡々と頭を下げ、傍らに持つ桐箱を差し出した。
先日、すみれに贈られたあの簪だ。
「先日、すみれに賜ったこちらですが……分不相応な品ゆえ、ここにお返しいたします」
「……おや。それは私が『彼女』に贈ったものだ。君に返される筋合いはないのだが?」
よくもぬけぬけと、そんな言葉を。
眉間に、隠しようのない不快感が刻まれる。
「簪を贈る行為自体が、この社交界で何を意味するか。東宮殿下が理解されていないはずがないでしょう」
「さあ、どうだったかな。単に、彼女の髪に似合うと思っただけだよ」
「……ふざけるな」
挨拶すら交わす前に、開口一番に放たれたのはその問いだった。
——『愛らしい』など。他人の婚約者に向かい、よくも。
東宮殿下。従兄弟であるはずの男の、真意の読めない微笑。
今年に入ってからすでに三回目。異常なほど頻度を増した呼び出し。
その狙いがどこにあるのか、もはや疑う余地もなかった。
「東宮殿下。お召しにより参上いたしました」
「堅苦しいな。二人きりの場だ、もっと楽にしてもかまわないよ」
感情を押し殺したまま淡々と頭を下げ、傍らに持つ桐箱を差し出した。
先日、すみれに贈られたあの簪だ。
「先日、すみれに賜ったこちらですが……分不相応な品ゆえ、ここにお返しいたします」
「……おや。それは私が『彼女』に贈ったものだ。君に返される筋合いはないのだが?」
よくもぬけぬけと、そんな言葉を。
眉間に、隠しようのない不快感が刻まれる。
「簪を贈る行為自体が、この社交界で何を意味するか。東宮殿下が理解されていないはずがないでしょう」
「さあ、どうだったかな。単に、彼女の髪に似合うと思っただけだよ」
「……ふざけるな」



