【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

「今日は、愛らしい婚約者殿は連れてこなかったのか?」

 挨拶すら交わす前に、開口一番に放たれたのはその問いだった。
 ——『愛らしい』など。他人の婚約者に向かい、よくも。

 東宮殿下。従兄弟であるはずの男の、真意の読めない微笑。
 今年に入ってからすでに三回目。異常なほど頻度を増した呼び出し。
 その狙いがどこにあるのか、もはや疑う余地もなかった。

「東宮殿下。お召しにより参上いたしました」
「堅苦しいな。二人きりの場だ、もっと楽にしてもかまわないよ」

 感情を押し殺したまま淡々と頭を下げ、傍らに持つ桐箱を差し出した。
 先日、すみれに贈られたあの簪だ。

「先日、すみれに賜ったこちらですが……分不相応な品ゆえ、ここにお返しいたします」
「……おや。それは私が『彼女』に贈ったものだ。君に返される筋合いはないのだが?」

 よくもぬけぬけと、そんな言葉を。
 眉間に、隠しようのない不快感が刻まれる。

「簪を贈る行為自体が、この社交界で何を意味するか。東宮殿下が理解されていないはずがないでしょう」
「さあ、どうだったかな。単に、彼女の髪に似合うと思っただけだよ」
「……ふざけるな」