この簪に込められた、高貴な方々特有の『意味』など、私には到底理解できない。
けれど、答えは最初から決まっていた。
迷う余地など、最初からなかった。
「私は……暁臣様からいただいたもので、十分です。それ以外は、何も……」
「……そうか……では、また今度二人で買いに行こう。すみれに似合うものを」
暁臣様の声が、わずかに和らいだ。
そこでようやく、私は自分が無意識のうちに簪を強請ってしまったことに気が付き、顔が赤くなった。
「あの、すみません!なんて図々しいことを……」
「構わない。すみれが身に着けるものは、今後もすべて俺が揃えよう……他の男の影など、一切必要ない」
独占欲の滲むその言葉に、私は吸い込まれるように頷いた。
胸の奥がくすぐったくて、でも恥ずかしくて、視線が泳ぐ。
そうされることが、私にとって何よりも嬉しく、当然のことだと思えたのだ。
『当然』だと思える自分が、少し怖いくらいに。
「……すみれ。今日は、怖くなかっただろうか」
ふいに投げかけられた問いに、私は言葉を詰まらせた。
怖くなかったか……と言われたら、贈り物の意味も、東宮殿下の真意すら、なにもかもがわからず、怖かった。
けれど——その怖さを、私は一人で抱え込まずにいられた。
「……少しだけ、圧倒されてしまいました。でも……」
「でも?」
「暁臣様が、ずっと隣にいてくださったので。それだけで、私は大丈夫でした」
「……そうか。それならいい」
暁臣様はそれ以上、何も言わなかった。
けれど、室内に漂う沈黙は、先ほどまでの刺々しいものから、ずっと穏やかで、親密な体温を感じるものへと変わっていた。
暖炉の熱が、ようやく胸の奥まで届く。
「次の茶会には、俺一人で行くことにする」
「え……っ」
冷水を浴びせられたような衝撃に、私は顔を上げた。
やはり、今日の私は粗相をしてしまったのだろうか。
お妃教育で教わったことを、あの場で失敗してしまったのではないか。
不安が波のように押し寄せる。
「そんな顔をするな……すみれのお披露目は、もう十分だということだ。これ以上、あの男に、お前を見せる必要はない」
「……はい……」
そう言われても、不安の種は消えない。
暁臣様の手元にある、金色に輝く花の紋章が刻まれた桐箱。
本来なら、最上の名誉であるはずのそれが、今の私には、開けてはいけない箱のように見えて仕方がなかった。
そしてその『開けてはいけない』が、簪よりもずっと鋭く、胸の内側に刺さり続けている。
けれど、答えは最初から決まっていた。
迷う余地など、最初からなかった。
「私は……暁臣様からいただいたもので、十分です。それ以外は、何も……」
「……そうか……では、また今度二人で買いに行こう。すみれに似合うものを」
暁臣様の声が、わずかに和らいだ。
そこでようやく、私は自分が無意識のうちに簪を強請ってしまったことに気が付き、顔が赤くなった。
「あの、すみません!なんて図々しいことを……」
「構わない。すみれが身に着けるものは、今後もすべて俺が揃えよう……他の男の影など、一切必要ない」
独占欲の滲むその言葉に、私は吸い込まれるように頷いた。
胸の奥がくすぐったくて、でも恥ずかしくて、視線が泳ぐ。
そうされることが、私にとって何よりも嬉しく、当然のことだと思えたのだ。
『当然』だと思える自分が、少し怖いくらいに。
「……すみれ。今日は、怖くなかっただろうか」
ふいに投げかけられた問いに、私は言葉を詰まらせた。
怖くなかったか……と言われたら、贈り物の意味も、東宮殿下の真意すら、なにもかもがわからず、怖かった。
けれど——その怖さを、私は一人で抱え込まずにいられた。
「……少しだけ、圧倒されてしまいました。でも……」
「でも?」
「暁臣様が、ずっと隣にいてくださったので。それだけで、私は大丈夫でした」
「……そうか。それならいい」
暁臣様はそれ以上、何も言わなかった。
けれど、室内に漂う沈黙は、先ほどまでの刺々しいものから、ずっと穏やかで、親密な体温を感じるものへと変わっていた。
暖炉の熱が、ようやく胸の奥まで届く。
「次の茶会には、俺一人で行くことにする」
「え……っ」
冷水を浴びせられたような衝撃に、私は顔を上げた。
やはり、今日の私は粗相をしてしまったのだろうか。
お妃教育で教わったことを、あの場で失敗してしまったのではないか。
不安が波のように押し寄せる。
「そんな顔をするな……すみれのお披露目は、もう十分だということだ。これ以上、あの男に、お前を見せる必要はない」
「……はい……」
そう言われても、不安の種は消えない。
暁臣様の手元にある、金色に輝く花の紋章が刻まれた桐箱。
本来なら、最上の名誉であるはずのそれが、今の私には、開けてはいけない箱のように見えて仕方がなかった。
そしてその『開けてはいけない』が、簪よりもずっと鋭く、胸の内側に刺さり続けている。



