秋に婚儀を執り行うと伺ったのは、新年の祝賀会が終わったつい先日のことだった。
まだ半年以上も先の出来事のはず。なのに、もう——こんなにも早く、現実が形を持って押し寄せてくる。
この世界では、人は生まれながらに『華の加護』と『異能』を宿して産声を上げる。
牡丹や菊は勇猛な武家に多く、桜や藤は芸や学問に秀でた者に好んで現れる。
中でも薔薇の『華』は希少で、黒を帯びたそれは皇族の血を引く者にしか現れない、至高の証。
目の前で静かに佇む五条家嫡男、暁臣様。
この国の頂点に近い『王華』——『黒薔薇』という唯一無二の『異能』を宿す人。
その強すぎる力ゆえ、かつては誰とも触れ合うことすら叶わなかった。
そして、私は。
誰しもが持つはずの華を持たずに生まれた、『無華』。
その証として、左右で色が違う焦げ茶と紫の瞳を持っている。
亡き生母は死の間際まで私のこの瞳を『不吉だ』と恐れた。
のちにやってきた継母と妹は、私を透明な存在として扱い、当たり前のように虐げ続けた。
あの日まで、蔵の中でひっそりと、泥に埋もれるように消えていくのだと信じて疑わなかった。
——私の人生は、そこまでだと。
それなのに。
暁臣様の温かさに触れ、その隣に立つことを許された。
婚約が決まったというだけでも、まだ頬をつねりたくなるような夢心地の中にいるというのに。
具体的な日取りが決まったことで、いよいよ『結婚』という現実が、重みを持って私へ落ちてくる。
幸せなはずなのに、私を置き去りにしてすべてが決まっていく感覚に、言いようのない畏怖が混じる。
この白に、私は染まってもよいのだろうか。
指先が、袖の中で小さく強張った。
まだ半年以上も先の出来事のはず。なのに、もう——こんなにも早く、現実が形を持って押し寄せてくる。
この世界では、人は生まれながらに『華の加護』と『異能』を宿して産声を上げる。
牡丹や菊は勇猛な武家に多く、桜や藤は芸や学問に秀でた者に好んで現れる。
中でも薔薇の『華』は希少で、黒を帯びたそれは皇族の血を引く者にしか現れない、至高の証。
目の前で静かに佇む五条家嫡男、暁臣様。
この国の頂点に近い『王華』——『黒薔薇』という唯一無二の『異能』を宿す人。
その強すぎる力ゆえ、かつては誰とも触れ合うことすら叶わなかった。
そして、私は。
誰しもが持つはずの華を持たずに生まれた、『無華』。
その証として、左右で色が違う焦げ茶と紫の瞳を持っている。
亡き生母は死の間際まで私のこの瞳を『不吉だ』と恐れた。
のちにやってきた継母と妹は、私を透明な存在として扱い、当たり前のように虐げ続けた。
あの日まで、蔵の中でひっそりと、泥に埋もれるように消えていくのだと信じて疑わなかった。
——私の人生は、そこまでだと。
それなのに。
暁臣様の温かさに触れ、その隣に立つことを許された。
婚約が決まったというだけでも、まだ頬をつねりたくなるような夢心地の中にいるというのに。
具体的な日取りが決まったことで、いよいよ『結婚』という現実が、重みを持って私へ落ちてくる。
幸せなはずなのに、私を置き去りにしてすべてが決まっていく感覚に、言いようのない畏怖が混じる。
この白に、私は染まってもよいのだろうか。
指先が、袖の中で小さく強張った。



