穏やかな夕食の時間が終わり、夜の帳が下りた外を眺めるすみれの横顔を、俺はただじっと見つめていた。
室内の柔らかな照明と、暖炉で爆ぜる薪の火。
そして庭園に置かれたわずかな灯りに照らし出された彼女の表情は、どこまでも穏やかで、吸い込まれそうなほど清らかだ。
……不思議だ。眺めているだけで胸の奥が静かに満ちていく。
けれど同時に、底の方がひりつく。触れたくて、触れてはいけない気もして。
「何を見ている?」
背後から声をかけると、彼女は小さく肩を揺らし、愛らしい仕草でこちらを振り返った。
一瞬だけ驚いた目。すぐにほっとしたように緩むまなざし。
——俺を見て安心する、その癖が胸に刺さる。
「暁臣様……。雪が、また降り出したみたいで……」
「道理で冷え込むわけだ……これ以上、お前の体が冷えては困る」
そう言いながら、彼女の細い肩を背後から包み込むように抱きしめた。
腕の中に収まってしまうほどの華奢な体躯。
骨ばった輪郭の上に、ぬくもりがかろうじて乗っている。
うなじからふわりと漂うのは、清廉な花の香りと、彼女自身の体温が混ざり合った甘い匂いだ。
着物の襟足から覗く白い肌、無防備に晒されたその首筋。
俺にすべてを預けているその姿に、心の奥底で澱んでいた、どうしようもないほどの劣情が静かに煽られる。
——守りたい。壊したくない。
なのに、触れれば触れるほど、もっと欲しくなる。
「すみれ、こちらに」
彼女を促してソファに腰掛けさせると、用意していた白い小箱を手渡した。
指先に吸い付くような紙の感触。彼女は受け取った瞬間、持っていいのか迷うように手を止めた。
「……?これは……」
「十九歳の誕生日、おめでとう。すみれ」
「十九……?あ……」
昨年は、彼女の誕生日を知ったときにはすでにその日を過ぎていた。
祝うことすら叶わなかったあの日を思い出す。
あのときの俺は、まだ間に合わなかったことを悔やむ資格すらない立場だった。
——ただ、遅れて手を伸ばしただけの男だ。
すみれの瞳がわずかに揺れ、困惑したように手元の箱に視線を落とした。
自分の誕生日がいつなのか、祝われることがどれほど特別なことなのか。
そんな当たり前のことさえ、彼女は知らないまま生きてきたのだ。
その事実が、胸の奥を鈍く締め付ける。
「今年は、当日に祝うことができた」
「あの……これ、本当に私に……?いただいても、よろしいのでしょうか」
いまだにこうして、自分への贈り物を受け取ることすら戸惑い、怯えたような表情を見せる。
彼女に贈るものすべてが、彼女にとっては未知の経験。
そしてそれは同時に、彼女がいかに『無華』として、家族からも世界からも蔑ろにされてきたかの残酷な証明でもあった。
——俺はその穴を、少しでも埋められるのか。
室内の柔らかな照明と、暖炉で爆ぜる薪の火。
そして庭園に置かれたわずかな灯りに照らし出された彼女の表情は、どこまでも穏やかで、吸い込まれそうなほど清らかだ。
……不思議だ。眺めているだけで胸の奥が静かに満ちていく。
けれど同時に、底の方がひりつく。触れたくて、触れてはいけない気もして。
「何を見ている?」
背後から声をかけると、彼女は小さく肩を揺らし、愛らしい仕草でこちらを振り返った。
一瞬だけ驚いた目。すぐにほっとしたように緩むまなざし。
——俺を見て安心する、その癖が胸に刺さる。
「暁臣様……。雪が、また降り出したみたいで……」
「道理で冷え込むわけだ……これ以上、お前の体が冷えては困る」
そう言いながら、彼女の細い肩を背後から包み込むように抱きしめた。
腕の中に収まってしまうほどの華奢な体躯。
骨ばった輪郭の上に、ぬくもりがかろうじて乗っている。
うなじからふわりと漂うのは、清廉な花の香りと、彼女自身の体温が混ざり合った甘い匂いだ。
着物の襟足から覗く白い肌、無防備に晒されたその首筋。
俺にすべてを預けているその姿に、心の奥底で澱んでいた、どうしようもないほどの劣情が静かに煽られる。
——守りたい。壊したくない。
なのに、触れれば触れるほど、もっと欲しくなる。
「すみれ、こちらに」
彼女を促してソファに腰掛けさせると、用意していた白い小箱を手渡した。
指先に吸い付くような紙の感触。彼女は受け取った瞬間、持っていいのか迷うように手を止めた。
「……?これは……」
「十九歳の誕生日、おめでとう。すみれ」
「十九……?あ……」
昨年は、彼女の誕生日を知ったときにはすでにその日を過ぎていた。
祝うことすら叶わなかったあの日を思い出す。
あのときの俺は、まだ間に合わなかったことを悔やむ資格すらない立場だった。
——ただ、遅れて手を伸ばしただけの男だ。
すみれの瞳がわずかに揺れ、困惑したように手元の箱に視線を落とした。
自分の誕生日がいつなのか、祝われることがどれほど特別なことなのか。
そんな当たり前のことさえ、彼女は知らないまま生きてきたのだ。
その事実が、胸の奥を鈍く締め付ける。
「今年は、当日に祝うことができた」
「あの……これ、本当に私に……?いただいても、よろしいのでしょうか」
いまだにこうして、自分への贈り物を受け取ることすら戸惑い、怯えたような表情を見せる。
彼女に贈るものすべてが、彼女にとっては未知の経験。
そしてそれは同時に、彼女がいかに『無華』として、家族からも世界からも蔑ろにされてきたかの残酷な証明でもあった。
——俺はその穴を、少しでも埋められるのか。



