思わず、感嘆の吐息が漏れる。
先ほどの珈琲と同じような黒いものが、宝石のように艶やかな固形となって、透明な器に鎮座している。
お皿が揺れるのに合わせて、プルプルと、まるで生きているみたいに可愛らしく震えている。
その上には、たっぷりの生クリームと、鮮やかな真っ赤なさくらんぼ。
白と黒と赤。たった三色なのに、こんなにも華やかだなんて。
「珈琲ゼリーだ。これなら少しは食べやすいだろう」
「こーひーぜりー……」
促されるまま、恐る恐るスプーンを手に取る。
真っ白なクリームと、漆黒のゼリー。
その境界線をすくい上げ、口に運んだ。
「っ!?……あ……!」
舌に触れた瞬間、先ほどと同じ深い苦味が広がる。
けれど、すぐにそれを追いかけるように、クリームの濃厚な甘さと滑らかさが混ざり合った。
苦いのに、やさしい。黒いのに、どこか温かい。
あんなに苦くて飲み込めなかったはずの味が、嘘のように心地よく口の中で広がっていく。
驚きのあまり、私は目を丸くして暁臣様を見返した。
「どうだ、これならいけるか?」
「な、なんだか……口に入れた瞬間、柔らかく崩れて……。苦いのに、甘くて……不思議です」
「ふっ。食べられそうだな」
「はい……!とても、おいしいです……!」
そっと、二度、三度、と、スプーンを進めた。
舌の上でとろけるゼリーの食感と、鼻に抜ける珈琲の香り。
口の中で黒がほどけていくのに合わせて、心の中の固さまで少しずつ溶けていくみたいだった。
暁臣様は、こうして私を外へ連れ出すたびに、私が知らない『世界の欠片』を教えてくれる。
この広い世界には、私の想像もつかないような美味しいものが、まだこんなに溢れているのだ。
「……本当に、お前は食べさせ甲斐があるな」
「……!」
暁臣様の言葉に、ハッと手が止まる。
どうしよう。夢中で食べている姿を見られて、食いしん坊だと思われてしまったかもしれない。
そう自覚した途端、顔がカッと熱くなるのが分かった。
「ふっ。さくらんぼより顔が赤いぞ」
「……もしかして、からかっていらっしゃいますか……?」
「まさか……ただ、こうしてちゃんと食事が摂れるようになって良かったと、心から思っているんだ」
暁臣様の声が、ふっと熱を帯びた。
確かに、保護されたばかりの頃の私は、一膳のお粥を飲み込むことすらままならないほどだったのに。
それが今では、こうして向かい合って、新しい食べ物の味を楽しみ、会話を交わせるまでになった。
匙を持つ指に、力がある。笑う余裕がある。——それだけで、胸がいっぱいになる。
『美味しい』と思えること。
明日も、その先も、こうして向かい合っていられると信じられること。
それが何よりも、今の私にとっては幸福な奇跡のように思えるのだった。
喉の奥に残る珈琲の香りが、苦くない。むしろ、少しだけ誇らしい。
先ほどの珈琲と同じような黒いものが、宝石のように艶やかな固形となって、透明な器に鎮座している。
お皿が揺れるのに合わせて、プルプルと、まるで生きているみたいに可愛らしく震えている。
その上には、たっぷりの生クリームと、鮮やかな真っ赤なさくらんぼ。
白と黒と赤。たった三色なのに、こんなにも華やかだなんて。
「珈琲ゼリーだ。これなら少しは食べやすいだろう」
「こーひーぜりー……」
促されるまま、恐る恐るスプーンを手に取る。
真っ白なクリームと、漆黒のゼリー。
その境界線をすくい上げ、口に運んだ。
「っ!?……あ……!」
舌に触れた瞬間、先ほどと同じ深い苦味が広がる。
けれど、すぐにそれを追いかけるように、クリームの濃厚な甘さと滑らかさが混ざり合った。
苦いのに、やさしい。黒いのに、どこか温かい。
あんなに苦くて飲み込めなかったはずの味が、嘘のように心地よく口の中で広がっていく。
驚きのあまり、私は目を丸くして暁臣様を見返した。
「どうだ、これならいけるか?」
「な、なんだか……口に入れた瞬間、柔らかく崩れて……。苦いのに、甘くて……不思議です」
「ふっ。食べられそうだな」
「はい……!とても、おいしいです……!」
そっと、二度、三度、と、スプーンを進めた。
舌の上でとろけるゼリーの食感と、鼻に抜ける珈琲の香り。
口の中で黒がほどけていくのに合わせて、心の中の固さまで少しずつ溶けていくみたいだった。
暁臣様は、こうして私を外へ連れ出すたびに、私が知らない『世界の欠片』を教えてくれる。
この広い世界には、私の想像もつかないような美味しいものが、まだこんなに溢れているのだ。
「……本当に、お前は食べさせ甲斐があるな」
「……!」
暁臣様の言葉に、ハッと手が止まる。
どうしよう。夢中で食べている姿を見られて、食いしん坊だと思われてしまったかもしれない。
そう自覚した途端、顔がカッと熱くなるのが分かった。
「ふっ。さくらんぼより顔が赤いぞ」
「……もしかして、からかっていらっしゃいますか……?」
「まさか……ただ、こうしてちゃんと食事が摂れるようになって良かったと、心から思っているんだ」
暁臣様の声が、ふっと熱を帯びた。
確かに、保護されたばかりの頃の私は、一膳のお粥を飲み込むことすらままならないほどだったのに。
それが今では、こうして向かい合って、新しい食べ物の味を楽しみ、会話を交わせるまでになった。
匙を持つ指に、力がある。笑う余裕がある。——それだけで、胸がいっぱいになる。
『美味しい』と思えること。
明日も、その先も、こうして向かい合っていられると信じられること。
それが何よりも、今の私にとっては幸福な奇跡のように思えるのだった。
喉の奥に残る珈琲の香りが、苦くない。むしろ、少しだけ誇らしい。



