【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 舌の奥に、きゅうっと鋭い苦味が突き刺さった。
 に、苦い……っ。
 目の奥がきゅっと縮んで、肩が跳ねる。
 あまりの衝撃に慌てて飲み下したけれど、喉を通っていく間もずっと、口の中が『苦い』という未知の感覚で大騒ぎしている。

「どうした。口に合わなかったか?」
「い、いえ……その……」

 顔が熱い。二口目を啜る勇気がどうしても湧かず、カップを持ったまま、思わず目をきゅっと閉じてしまった。
 情けなくて、恥ずかしくて、でも——本当に苦い。

 どうして暁臣様は、こんなに厳しい味がするものを平然と飲まれているのだろう。
 ひょっとして、私のだけ違う飲み物なんじゃ……。
 いえ、暁臣様がそんな子供染みた真似をされるはずがない。
 ……ない、のに。悪戯っぽい目をしている気もする。

 私はもう一度、勇気を振り絞ってほんの少しだけ口をつけてみた。
 さっきよりも慎重に、量を減らしてみたけれど、やっぱり私の舌は悲鳴を上げてしまう。
 喉が、きゅっと縮む。飲み込みたいのに飲み込めない。

「……どうだ。感想を聞かせてくれ」
「……その……とっても、苦くて……」

 自分でも情けないほど細い声が出てしまったと思う。

「ぷっ……くくっ、ははは!」

 暁臣様は、私の反応をじっと観察していたかと思うと、突然吹き出すように笑い出した。
 その笑い方が、なんだか悔しいのに、むしろ、胸の奥がほどけてしまう。

「すまない……すみれがそういう反応をするだろうな、と分かっていて、つい意地悪をしてしまった」

 暁臣様の瞳には、悪戯が成功した子供のような、それでいてひどく優しい色が宿っている。
 彼は私の手からそっとカップを取り上げると、それを自分の方へ引き寄せ、通りかかった店主を呼び止めた。

「悪いが、こちらの珈琲は引いてくれ。代わりに——これを。クリームを多めにできるか?」

 暁臣様がメニューの一角を指差すと、店主は心得たように深く頷いて下がっていった。
 私のせいで恥をかかせてしまったのではないか……。
 そればかりが気になって、指先を弄んでしまう。
 袖口の縫い目をなぞって、落ち着こうとする。

 身分の差や、経験のなさを改めて痛感し、少しだけ胸がチクリと痛んだ。
 けれど、そんな私の沈んだ気持ちを弾き飛ばすように、「お待たせいたしました」という明るい声が響いた。
 目の前に置かれたのは、ガラスの器に乗った不思議な食べ物だった。

「……っ、わぁ……!」