【Web版】無華の花嫁3~秘めた力を狙われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される~

 女中さんに導かれ、暁臣様の斜め後ろを歩きながら邸内を進む。
 皇居の荘厳さともまた違う、磨き上げられた歴史の重みに気圧されそうになる。
 床板が微かに軋む音さえ遠慮がちに響き、背中が勝手に強張る。
 中庭に面した長い廊下を通る際、自分の吐く息の音すら憚られるほどの静謐さがそこにはあった。

 通された広い客間には、気が遠くなるほど高い天井と、眩い光を放つ大きなシャンデリア。
 光は宝石のように割れて、絨毯にまで降り注いでいる。
 以前の私なら、この輝きに怯えてすぐに俯いていただろう。
 けれど今は、藤波様や篠塚様との厳しいお妃教育の成果だろうか。
 しっかりと背筋を伸ばし、顔を上げて周囲を見渡すことができている。
 視線を落とさない。それだけで、私の中の何かが少しだけ強くなる。

 自分の中に小さな『自信』が芽吹いていることに、安堵の溜息が漏れた。

 ふと、華やかな人々がひしめく中で、私を射抜くような強い視線を感じた。
 刺さる、というより、測られる。温度のない刃が肌の上を滑るみたいな。
 導かれるように視線を送ると、上座に立つ一人の男性と目が合った。
 けれど、その視線はすぐに、何事もなかったかのように逸らされる。
 まるで、最初から見ていなかったとでも言うように。

「東宮殿下がどうかしたか?」

 暁臣様が、私の視線を追って低く囁いた。

「あの方が……東宮殿下、なのですか……」

 東宮殿下。次の天皇となるお方。
 背丈は暁臣様よりわずかに低いくらいだろうか。けれど、立ち方が静かで、周囲の空気が自然と整っている。
 年齢も彼と同じ、二十歳前後に見える。切れ長の涼やかな目元、少し長めに整えられた髪。
 浮かべられているのは、柔和で、どこか人を安心させるような穏やかな微笑み。
 ——なのに、さきほどの視線だけが氷のように冷たい。