神々の食卓――御厨守をしていたら神様に求婚されました

 晴は本格的に御厨守の仕事を再開した。
 白瞑の屋敷のキッチンに、日に二度、短冊が届く。

「山の神様は今回もお肉料理だ。川の神様はお魚料理だね。風の神様は麺料理……あ! 氷魚様からも来てる。今回はキムチ鍋がいいって。お豆腐マシマシにしてあげよう」

 短冊を一枚ずつ確認しながら、白瞑に見せる。

「楽しそうだね、晴」
「うん! 白瞑と一緒にお料理できるの、とても楽しいよ」

 一人で料理を作るのも楽しい。二人で料理を作るのは、もっと楽しい。

「月の雫を使った時、同じ気持ちでお料理したでしょ。今までにないくらい特別って思えたんだ。白瞑と一緒じゃないと、あの気持にはなれないから」

 好きなことを好きな人とするのが、こんなに楽しいなんて知らなかった。
 白瞑が、晴を後ろから抱きしめた。

「これからも、一緒に御饌を作ろう」
「うん! 僕ら二人で作ったら、何倍も美味しい御饌ができるよ」

 白瞑が抱きしめてくれる腕が、嬉しい。ずっと、この温もりの中にいたい。晴は、そっと白瞑の手に触れた。

(好きだけじゃ、ダメなんだよね。僕に必要な、覚悟……)

 白瞑が好きだ。ずっと一緒にいたい。白瞑の一番になりたい。誰にも渡したくない。
 気持ちは決まっている。けれど、覚悟の仕方がわからない。

(僕には、何が足りないんだろう)

 白瞑がずっと言い続けている。照陽と夜見が、希少な月の雫を使って試験をしてまで教えてくれた。
 晴は、白瞑を振り返った。

「僕、白瞑の伴侶になりたい。だから、僕に足りないもの、探したい」

 白瞑が目を見開いた。

「晴から伴侶になりたいって言ってくれたのは、初めてだね」
「え? あ……そうかも」

 今までは、一緒にいたいしか、わからなかった。今は白瞑が好きだと、はっきりわかる。だから、離れたくない。

「白瞑が大切な気持ちをいっぱいくれるから。僕も同じくらい……ううん、もっといっぱい渡したいって思うよ」

 白瞑の目が、柔らかく笑んだ。晴を引き寄せて、胸に抱く。

「晴の気持ちが、熟してる。私に向かってくれている。とても嬉しいよ」
「それでも僕には、まだ足りないよね」

 前はわからなかった。白瞑が大切で、失いたくない。そう思うからこそ、今ならわかる。晴と白瞑では、何かが大きく違う。

「焦らなくていいよ。神世で御厨守のお務めができるようになったんだから。時間はあるから、じっくり探せばいい」

 白瞑が晴の頬を撫でた。耳を撫でる時のような手つきが、くすぐったい。

「うん……」

 晴は俯いた。何かが胸の奥に棘のように引っ掛かっている。それが何かわからなくて、胸がざわつく。

「心配しなくていいよ。晴の大事な気持ちは、時間をかけてじっくり育てていこう」

 白瞑の優しい温もりが、晴を包む。嬉しいのに、少し切ない。

(早く応えたい。同じ温もりを、僕も白瞑にあげたい)

「好きだよ、白瞑」

 白瞑の頬に、唇で触れた。

「……晴、今の……」

 白瞑の頬が見る間に朱に染まる。夕焼けみたいな頬になった。

「あっ……あの、好きって思ったら、しちゃってた。嫌だった……?」
「嫌じゃない!」

 白瞑が、晴をぎゅっと抱きしめた。

「嬉しいよ、晴からのキス」

 するりと、白瞑が頬を摺り寄せる。温かな唇が、晴の頬に吸い付いた。

「お礼で、お返し」

 白瞑の瞳が笑む。その瞳の奥に、夕焼け色の熱が灯っていた。
 晴の心臓が、トクントクンと鼓動を早める。

(胸が、ドキドキして、言葉が出ない)

 嬉しくてたまらないのに、声が出ない。だから晴は、白瞑に抱き付いた。

「可愛いね、晴」

 白瞑の声が甘くて、蜜菓子みたいだ。甘い温もりに包まれて、溶けてしまいそうだった。