しばらくは白瞑の屋敷で御饌を作る日々が続いた。連絡がなくて不安を感じ始めた頃、湫憂から報せが届いた。
『ようやく準備が整ったようだよ。日の神と月の神が行くから、出迎えをよろしくね』
おしゃべりオウムが湫憂の伝言を告げる。
白瞑が口を引き結んで聞いていた。その横顔を見詰めて、晴は迷っていた。
(月の神様と日の神様は、白瞑と何かありそうな感じだった。聞いたら教えてくれるかな)
迷いながらも、晴は口を開いた。
「あのね、白瞑……」
「晴、実は……」
声が被って、互いに言葉を止めた。晴は白瞑と見詰め合った。
「きっと、僕が聞きたいことと白瞑が話そうとしてくれたこと」
「同じ、だよね」
二人同時に頷く。
「日の神様と月の神様と、何かあったのかなって思って」
晴は思い切って気になっていたことを聞いた。
「うん……実は昔、月の神に契りを申し込まれているんだ」
晴は息を飲んだ。
「契りって、伴侶になるってこと?」
白瞑が頷いた。
「断ったんだけどね。今でも時々、声をかけられて、流していたんだよね」
「どうして、断ったの?」
考えるより先に、疑問が口を吐いた。
「夜見が好きだったのは私じゃなくて、私の表面だけだから」
白瞑が悲しそうな顔をした。
「私が欲しい愛も伴侶も、夜見ではなかったんだ」
そう語る白瞑は儚げで、とても美しく見えた。
(白瞑はこういう顔をしている時、とても綺麗だ)
夕暮れを眺めるお務め中の白瞑も、とても美しい。
(きっと白瞑自身は悲しい気持ちでいる時なんだ)
憂いや儚さが美しいなんて、本人にとっては嬉しいものではないだろう。
白瞑の言葉が少しだけ理解できた気がした。
「今は晴がいるからね。さすがに何も言ってこないとは思うんだけど。ここまで来訪が遅れたのは少し気になるけどね」
白瞑が晴に手を伸ばした。晴の耳に、そっと触れる。
「何があろうと、晴に嫌な思いはさせないよ。だから、安心して」
「僕も、白瞑に嫌な思いさせない」
晴は、台所に飛び込むと、蜂蜜を持って戻った。
「これ、クローバーミツバチが集めた蜂蜜」
蜂蜜をミルクティに一匙垂らして、白瞑に差し出した。
「飲むと幸せな気持ちになれるんだよ。僕は白瞑の笑った顔が好きだよ」
白瞑がミルクティを眺めて笑んだ。
「晴と一緒だと、ずっと笑っていられるよ」
白瞑がミルクティを一口、含んだ。
「美味しい。晴が淹れてくれるお茶は全部美味しいけど。今日のは、いつもより美味しく感じるね」
「うん、美味しいね」
二人並んで幸せの蜂蜜入りミルクティを飲む。それだけで、ほくほく温かい気持ちになってくる。
「日の神様と月の神様、今までと同じように御饌でおもてなししよう。お二人が好きな御饌を準備しようね」
白瞑の手を握る。
「そうしよう。私も作るのを手伝うよ」
「うん!」
握り返してくれる手が嬉しい。この手を離したくない。
白瞑の気持ちが別のどこかに向くのが、怖い。だから早く、自分の中の覚悟を固めたい。
月の神より白瞑の気持ちのほうが気掛かりだった。
『ようやく準備が整ったようだよ。日の神と月の神が行くから、出迎えをよろしくね』
おしゃべりオウムが湫憂の伝言を告げる。
白瞑が口を引き結んで聞いていた。その横顔を見詰めて、晴は迷っていた。
(月の神様と日の神様は、白瞑と何かありそうな感じだった。聞いたら教えてくれるかな)
迷いながらも、晴は口を開いた。
「あのね、白瞑……」
「晴、実は……」
声が被って、互いに言葉を止めた。晴は白瞑と見詰め合った。
「きっと、僕が聞きたいことと白瞑が話そうとしてくれたこと」
「同じ、だよね」
二人同時に頷く。
「日の神様と月の神様と、何かあったのかなって思って」
晴は思い切って気になっていたことを聞いた。
「うん……実は昔、月の神に契りを申し込まれているんだ」
晴は息を飲んだ。
「契りって、伴侶になるってこと?」
白瞑が頷いた。
「断ったんだけどね。今でも時々、声をかけられて、流していたんだよね」
「どうして、断ったの?」
考えるより先に、疑問が口を吐いた。
「夜見が好きだったのは私じゃなくて、私の表面だけだから」
白瞑が悲しそうな顔をした。
「私が欲しい愛も伴侶も、夜見ではなかったんだ」
そう語る白瞑は儚げで、とても美しく見えた。
(白瞑はこういう顔をしている時、とても綺麗だ)
夕暮れを眺めるお務め中の白瞑も、とても美しい。
(きっと白瞑自身は悲しい気持ちでいる時なんだ)
憂いや儚さが美しいなんて、本人にとっては嬉しいものではないだろう。
白瞑の言葉が少しだけ理解できた気がした。
「今は晴がいるからね。さすがに何も言ってこないとは思うんだけど。ここまで来訪が遅れたのは少し気になるけどね」
白瞑が晴に手を伸ばした。晴の耳に、そっと触れる。
「何があろうと、晴に嫌な思いはさせないよ。だから、安心して」
「僕も、白瞑に嫌な思いさせない」
晴は、台所に飛び込むと、蜂蜜を持って戻った。
「これ、クローバーミツバチが集めた蜂蜜」
蜂蜜をミルクティに一匙垂らして、白瞑に差し出した。
「飲むと幸せな気持ちになれるんだよ。僕は白瞑の笑った顔が好きだよ」
白瞑がミルクティを眺めて笑んだ。
「晴と一緒だと、ずっと笑っていられるよ」
白瞑がミルクティを一口、含んだ。
「美味しい。晴が淹れてくれるお茶は全部美味しいけど。今日のは、いつもより美味しく感じるね」
「うん、美味しいね」
二人並んで幸せの蜂蜜入りミルクティを飲む。それだけで、ほくほく温かい気持ちになってくる。
「日の神様と月の神様、今までと同じように御饌でおもてなししよう。お二人が好きな御饌を準備しようね」
白瞑の手を握る。
「そうしよう。私も作るのを手伝うよ」
「うん!」
握り返してくれる手が嬉しい。この手を離したくない。
白瞑の気持ちが別のどこかに向くのが、怖い。だから早く、自分の中の覚悟を固めたい。
月の神より白瞑の気持ちのほうが気掛かりだった。



