神々の食卓――御厨守をしていたら神様に求婚されました

 春の神・麗良と夏の神・立夏が白瞑の屋敷を訪ねて来てから二日後、湫憂から報せが来た。

『日の神と月の神は準備が遅れそうなんだ。特別に許可を出すから、二人で冬の神の所に行っておいで』

 おしゃべりオウムが湫憂の伝言を届けてくれた。

「こっちから行くのか……冬の神の屋敷に、晴を連れて行くのか」

 白瞑がテーブルに突っ伏した。
 晴は、温々シロップを入れたホットコーヒーを出した。

「白瞑、大丈夫?」

 ソワソワ見守る晴に、白瞑が目を向けた。

「大丈夫、決意していただけだから。私がこんなでは、晴を不安にさせるね」

 白瞑が優しく晴の耳を撫でた。

「白瞑が辛いなら、僕一人で行って……」
「それだけは絶対にダメ」

 白瞑にしては珍しく強めに、きっぱりと却下した。

(御厨守の合意のために、白瞑に無理させているのかな。僕が諦めたら……)

 ここで諦めたら、狭間に戻らないといけない。白瞑の伴侶になるチャンスを失って、二度と神世には来られない。

「ごめん、白瞑。こんなに白瞑が辛そうなのに、僕……神世で御厨守をするの、諦めたくない」

 簡単に白瞑を諦めたくないと思った。白瞑の腕が伸びてきて、晴を包んだ。

「そういう晴が好きだよ。諦めないでくれて、嬉しいよ。大丈夫、晴は私が守るから」
「うん……ありがとう」

 白瞑の腕が温かい。この温もりに包まれていたい。

(何が足りないのかな。白瞑の気持ちと僕の気持ちは、何が違うのかな)

 出口の見えない森に迷い込んだ気分だ。

「冬の神のこと、少し教えておくね」

「うん」

 晴は、こくりと頷いた。

「冬の神の名前は:氷魚(ひお)、冬の間を管理する神だけど、屋敷からほとんど出ない引きこもり。気に入った相手としか話をしない変り者だよ」

 白瞑の説明には、所々棘を感じる。前にも冬の神を偏屈だと話していた。

(氷魚って、前に麗良様が白瞑に似てるって話していた神様の名前だ。冬の神様だったんだ)

 しかも、白瞑は険しい顔をしてた。晴は、これまでの白瞑の態度を思い返した。

(自分に似てるから苦手なのかな。他にも理由があるのかな)

「晴が行けば会ってくれるだろうけど。私とは会いたくないかもしれないね」
「どうして? 喧嘩しちゃったの?」

 白瞑が晴を眺める。あまりにずっと見てくるから、困った。

「……うん。ある意味、喧嘩だね。今は嫌われていると思うよ」
「それは、悲しいね。だから白瞑は、冬の神様の所に行くの、戸惑うんだね」

 シュンと、狸の耳が寝る。

「それもあるけど、それだけじゃないっていうか。むしろ他の問題のほうが大きいかな」

 白瞑が煮え切らない返事をした。晴は考え込んだ。

(喧嘩した二人を仲直りさせる方法って、あるかな。僕にできること、何かあるかな)

 寝ていた狸の耳が、ピンと立った。

「御饌を持っていこう」
「え? うん、まぁ。運ぶことはできるけど」
「美味しいものを一緒に食べたら、きっと仲直りできるよ!」
「仲直り? もしかして、私と氷魚のこと?」

 晴はコクコクと頷いた。

「冬の神様は、お鍋が好きなんだよ。白瞑もお鍋、好きでしょ?」
「それは、まぁ。晴が作る御饌は何でも好きだよ」
「みんなで一緒に、お鍋を食べよう」

 我ながら良い案だ。フルフルと尻尾が揺れる。それを眺めていた白瞑が、ぎこちなく笑った。

「一緒に食べるかは、別にしても。御饌を持っていくのは、いいかもしれないね」
「うん! 二人のために、とびきり美味しいの、作ろるからね」

 晴は気合を入れた。

「いや、あんまり頑張ると、氷魚がその気になっちゃうから、程々でいいよ」
「その気になっちゃ、ダメなの? 程々のほうが、仲直りできるの?」

 よくわからなくて、晴は首を傾げた。白瞑が晴の耳をムニムニした。

「わわわ! どうしたの?」

 最近の白瞑は晴の耳によく触れる。けれど、今はいつもと触れ方が違う。
 ムニムニよりギュムギュムする感じだ。

「晴は良い子で可愛いから、困っちゃうね」

 白瞑が息を吐いた。

「困る、の?」

 シュンと寝そうになる耳を、白瞑が撫でた。

「そういう可愛い姿は、私だけに見せて」

 白瞑が晴の髪に口付ける。ジワリと胸がくすぐったい。仕草も言葉もいつもの白瞑より甘く感じる。切ないように胸が締まるのに、滲む想いは甘かった。