神々の食卓――御厨守をしていたら神様に求婚されました

 中津公国には神世と常世の狭間《はざま》と呼ばれる場所がある。
 狭間には、神様の短冊が降ってくる「神々の祠」という洞窟がある。
 短冊は神々から御饌《みけ》のリクエストが書いてある大事な注文票だ。

「わぁ! 今日はいっぱいだぁ」

 晴《はる》は祠の天井に向かい、手を広げた。短冊が、ひらひらと振ってくる。
 手の中に落ちてきた短冊を、晴は一枚ずつ確認した。

「えっと……花の神様と春の神様はカナリア蜜の蜜菓子、海の神様は川フカの煮つけ、土の神様はビックリ根菜の煮つけ、か」

 ほくほくした気持ちで、何度も短冊を眺める。

「神様たちは食べるのがお好きだなぁ」

 短冊を捲る手から一枚、ひらりと落ちた。

「あれ、これは……」

 黒くて小さな文字が、控えめに書かれている。

『君と同じ食事をください。 夕暮の神』

 晴は短冊を、じっと見詰めた。

「まただ。本当に僕と同じでいいのかな」

 前回も、前々回も同じ注文だった。

「自分の好きな物を頼んでほしいんだけどな」

 晴はそのために狭間に常駐する、御饌のための御厨守《みくりやもり》だ。

「どうして、僕と同じがいいのかな」

 短冊に書かれた小さな文字を、すぃとなでた。

「どんな神様なんだろう」

 気になって、狸の耳がぴくぴくと跳ねた。
 晴は狸の獣人だ。人の体でも耳と尻尾だけは隠せない。狭間にいると本来の姿が出るから、獣人以外の姿に変化できない。

「よし、全力で美味しい御饌を作ろう。急いで御厨に戻って、お料理開始しよう」

 短冊を握り締めて、晴は御厨に走った。