鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 妖狐が、鞘へ戻しかけた手を止めた。
 値踏みするような目つきが、初めて意表を突かれた顔に変わる。

「……何だと」
「狐に触ったことがありません」
「狐……」
「それに、九本もあるので、どのような手触りなのか気になりました」
「つい先ほど、俺の身体には触れただろう」
「尻尾には触れておりません」

 しばらく私を見ていたが、やがて九本のうち一本をこちらへ寄せた。
 渋々、というふうでもなく、どこか観念したような仕草で。

「……一度だけだ」
「ありがとうございます」

 毛並みに手を置く。
 指先が、思っていた以上に深く沈んだ。
 氷のような刃を平然と受けてきた指先が、今はまるで違うものに触れて戸惑っている。

「……柔らかいのですね」
「感想はそれだけか」
「私にはない柔らかさですね」
「先ほどお前に触れた限りでは、人の肌と変わらなかったが」
「普通に触れられる分には、人肌です。ですが、刃が触れれば鉄になります。こちらは、刃を向けても柔らかいままでしょうか?」
「試すな」

 ふと、耳に視線を向ける。
 あの耳も同様の手触りなのだろうか……