鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

「……契約?」
「簡単なことだ。お前は俺の盾となり、俺を狙う刃を受けろ」
「……私に何の得が」
「お前の母と妹を救ってやると言ったら?」
「それを信用しろと?」
「お前は今し方、俺を殺そうとした。互いに信用などない。だから契約をする」
「救出に失敗した場合は」
「俺が失敗すると決めつけるな」

 拘束を解かれ、向かい合って座ると、妖狐が着ていた羽織を肩に掛けられる。
 畳の上には、先ほどまで私の首筋にあった刃が置かれていた。

「私が盾になる代わりに、母と妹を助けてくださるということですか」
「そうだ」
「二人を助けた後は、私をどうしますか」
「好きにしろ。残るも去るも、お前が決めればいい」

 少なくとも、私がここにいる間は、一族には失敗がばれることはない。
 その間だけでも、母と妹は生きながらえることができる。

「俺としてはお前のような便利な盾には、いつまでもいてもらっても構わないがな。だが、それでは契約は成立しないだろう」

 あわよくば、妖狐が母と妹を救ってくれる。
 わずかばかりの細い光に、迷う理由はなかった。

「契約します。母と妹を、助けてください」
「成立だ」

 妖狐が刃を拾い、鞘へ戻した。
 先ほどまで私を殺そうとしていた男に、命を預け合うことになった。
 奇妙な話だと思う。けれど一族へ戻るより、この男の言葉に賭ける方がまだ望みがあった。

 張り詰めていた気が緩んだせいか、ふと、場違いなことが口をついて出た。

「……一つお願いがあります」
「まだあるのか」
「尻尾を、触ってみたいです」