鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 言葉を選ばず、そう乞う。
 帰されて、暗殺失敗が知れれば、母と妹の命はない。
 ならばここで果てる方が、まだましだ。
 声の震えを、私は必死に抑え込んでいた。

「首絞め、水攻め……刃以外でしたら、私の息の根を止める術はいくらでもあります」

 畳に押し付けられたまま、私は続けた。

「生きて帰れば、失敗したことが露見します。母と妹が代わりに罰を受けます」
「随分と、あっさり己の命を投げ出すものだな」
「投げ出しているのではありません。他に、二人を救う道がないだけです」

 自分の声が、思いのほか静かなことに気づく。
 感情を交えず、ただ事実だけを述べる話し方は、幼い頃から徹底的に叩き込まれたもの。
 だが今、その平坦な声の奥に、微かな祈りのようなものが混じっていることを、自分でも感じていた。

 彼は、しばらく黙って私を見下ろしていた。
 値踏みする瞳の色が、わずかに変わると、炎が、ふっと消える。

「お前のような者が、なぜ暗殺者などに」
「生まれた時から、それしか道がありませんでしたので。他に、生き方を知りません」

 感情のない声で、そう答える。
 哀れみを乞うつもりはなかった。ただ、事実を並べただけ。

「一族に、戻る気は」
「戻る場所とは思っておりません。命じられた役目を果たせた時だけ戻れる場所。それだけです」
「ふむ……刃も狐火すら効かない鉄の姫、か。面白いな」

 妖狐は、しばらく黙って私を見ていた。
 値踏みするような視線が、いつしか別のものに変わりつつあることに、この時の私はまだ気づいていなかった。

「鉄姫よ。俺と、契約をしろ」