正式な祝言は、ひと月後に決まった。
その間に、母と砂都は妖狐の領地の外れに家を与えられた。
解放された娘たちも、望む者はそこで暮らし始めている。
白無垢の支度をする私の隣で、母が髪を整え、砂都が簪を選んでいる。
「……もう、どれでも同じじゃない?あ、簪はそれでいいと思う……」
「姉さま、それ、最初の暗殺に使った簪じゃない?」
「……じゃぁ、それ以外で……」
「砂都」
母に嗜められ、砂都が笑う。
同じ白無垢でも、前とは違った。
母と妹は見張られていない。
戸口にいる妖狐の侍女たちも、私を逃がさないためではなく、祝いの支度を手伝うためにいる。
「砂菜」
誓いの席から、琥珀が手を差し出す。
私は自分から、迷うことなくその手を取った。
「母君たちの家は、気に入ったか」
「はい。立派過ぎるくらいで。砂都は毎日、妖狐の子供たちと遊びに出ています」
「順応が早いな」
「私の妹ですから」
「お前は懐くまで、随分とかかったが」
「琥珀が怖かったので」
「今度は、何も隠していないだろうな」
「簪なら、砂都に取り上げられました」
「そういう意味ではない」
「分かっています」
盃を交わす。庭には、人と妖狐の双方が集まっていた。
これからすべてがすぐに変わるわけではない。
それでも、今日ここで結ばれる和平は、暗殺のための偽りではなかった。
風が吹き、白い花の香りが届く。
「この花の名を、まだ聞いていませんでした」
「知らなくても、気に入ったのだろう」
「教えてくださらないのですか」
「長く生きると、花の名など忘れる」
「年齢と同じですね」
「砂菜」
咎めるように名を呼ばれ、笑みが零れる。
「琥珀……」
「なんだ」
「私は、おそらくあなたほど長くは生きません」
妖狐が実際にどれくらい生きるのかわからない。
少なくとも、この人は百を優に超えていると話していた。
「それでも……皺くちゃになった私でも、そばに置いてくれますか?」
柔らかい日差しの中、大きな影が落ち、綿帽子の中を覗き込むように、金色の目が私を見つめる。
「皺だらけになったお前にも、俺は惚れる自信がある」
「それは、楽しみです」
大きな九本の尾が、私の体に絡みつく。
まるで、私を離す気はないとでも言うように。
傷つかないこの身体で、これからどれくらいの年月を琥珀と過ごせるのかは分からない。
ただ、誰かに使われるためではなく、自分で選んだ場所にいる。
琥珀の手を握り返すと、彼も指を絡めた。今度は、どちらも離さなかった。
同じ妖狐と三度の祝言を挙げた。
三度目で、私は本物の花嫁になった。
その間に、母と砂都は妖狐の領地の外れに家を与えられた。
解放された娘たちも、望む者はそこで暮らし始めている。
白無垢の支度をする私の隣で、母が髪を整え、砂都が簪を選んでいる。
「……もう、どれでも同じじゃない?あ、簪はそれでいいと思う……」
「姉さま、それ、最初の暗殺に使った簪じゃない?」
「……じゃぁ、それ以外で……」
「砂都」
母に嗜められ、砂都が笑う。
同じ白無垢でも、前とは違った。
母と妹は見張られていない。
戸口にいる妖狐の侍女たちも、私を逃がさないためではなく、祝いの支度を手伝うためにいる。
「砂菜」
誓いの席から、琥珀が手を差し出す。
私は自分から、迷うことなくその手を取った。
「母君たちの家は、気に入ったか」
「はい。立派過ぎるくらいで。砂都は毎日、妖狐の子供たちと遊びに出ています」
「順応が早いな」
「私の妹ですから」
「お前は懐くまで、随分とかかったが」
「琥珀が怖かったので」
「今度は、何も隠していないだろうな」
「簪なら、砂都に取り上げられました」
「そういう意味ではない」
「分かっています」
盃を交わす。庭には、人と妖狐の双方が集まっていた。
これからすべてがすぐに変わるわけではない。
それでも、今日ここで結ばれる和平は、暗殺のための偽りではなかった。
風が吹き、白い花の香りが届く。
「この花の名を、まだ聞いていませんでした」
「知らなくても、気に入ったのだろう」
「教えてくださらないのですか」
「長く生きると、花の名など忘れる」
「年齢と同じですね」
「砂菜」
咎めるように名を呼ばれ、笑みが零れる。
「琥珀……」
「なんだ」
「私は、おそらくあなたほど長くは生きません」
妖狐が実際にどれくらい生きるのかわからない。
少なくとも、この人は百を優に超えていると話していた。
「それでも……皺くちゃになった私でも、そばに置いてくれますか?」
柔らかい日差しの中、大きな影が落ち、綿帽子の中を覗き込むように、金色の目が私を見つめる。
「皺だらけになったお前にも、俺は惚れる自信がある」
「それは、楽しみです」
大きな九本の尾が、私の体に絡みつく。
まるで、私を離す気はないとでも言うように。
傷つかないこの身体で、これからどれくらいの年月を琥珀と過ごせるのかは分からない。
ただ、誰かに使われるためではなく、自分で選んだ場所にいる。
琥珀の手を握り返すと、彼も指を絡めた。今度は、どちらも離さなかった。
同じ妖狐と三度の祝言を挙げた。
三度目で、私は本物の花嫁になった。



