鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 少ない荷物をまとめ、母と砂都が待つ門へ向かう。
 足は進むのに、何度も庭を振り返りそうになった。

「姉さま、本当に行くの?」
「琥珀様が契約は終わりだと」
「それ、帰れって意味なの?」

 砂都に問われ、足が止まる。

 ……もし、私の解釈が大きく間違えていたら……?
 そんな考えが頭に過った、その時、背後から駆けてくる音がした。

「待て、砂菜!」

 振り向くより先に、腕を掴まれ、引き寄せされる。

「……っ琥珀様?」
「誰が、出て行ってよいと言った」
「……契約は、終わったと」
「ああ。終わった」
「それなら、なぜ引き止めるのですか」

 琥珀は息を整え、私の手を離さないまま答えた。

「契約がなくなったら、お前は俺のそばにいられないのか」
「いてもよいのかと訊きました」
「俺の許しを求めるな。お前自身が決めろ」
「……私が決めてよいことなのですか?」
「そのために契約を終わらせた」
「では、なぜ庭でそう言ってくださらなかったのですか!?」

 視界まで揺れて、思わず声が大きくなる。

「言った」
「言っていません!」
「この地に残る気はないのか、と」
「あれで分かると思ったのですか!?」
「……思った」
「長く生きても、言葉は足りないのですね」
「砂菜にだけは言われたくない」

 ようやく、琥珀が何を待っていたのか分かった。
 母と妹を人質に命じられ、次は契約を理由に盾となった。
 どちらも、私が選んだようでいて、選ぶ道は一つしかなかった。

 私に初めて選ばせようとしているのだ。