鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 数日後、床払いを終えた私を、琥珀が庭へ呼んだ。

「身体は」
「もう平気です」
「そうか」

 そこで会話が途切れる。
 琥珀は庭の白い花へ目を向けたまま、こちらを見ない。

「母君と妹君は助けた」
「はい」
「お前も、俺の盾として役目を果たした。これで契約は終わりだ」
「琥珀様は、それを望んでいるのですか」
「契約でお前を置いておくことは望まぬ。この先は、自分で決めろ」

 分かっていた言葉だった。
 母と砂都を救う代わりに、私は彼の盾になる。
 約束は互いに果たされた。

「……分かりました」

 琥珀がこちらを見る。
 何かを待っているように見えたが、私には言葉が見つからない。

「短い間でしたが、ありがとうございました、琥珀様」

 水牢で外れた敬称を、もう一度戻す。琥珀の眉が動いた。

「それだけか」
「契約は終わったのでしょう?」
「ああ」
「ならば、母と砂都と暮らせる場所を探します」
「この地に残る気はないのか」
「契約がなくても、私が必要ですか」
「必要かどうかを訊くな」
「では、何を……」
「……もういい」

 柔らかい尾を揺らして、琥珀が顔を背ける。
 その背中に向けて声をかける。

「いても、よいのですか」
「それを俺に聞くのか」

 胸の奥が騒いだ。
 けれど、それ以上を言わない。
 それきり、琥珀は部屋を出て行ったしまった。

 私を契約で縛らないためなのだと気づけるほど、私はまだ人の望みに慣れていなさすぎて、どう口にすればいいのかわからないまま。