鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

「……水門を開けば、どのくらいで満ちるのですか」
「試してみるか?」
「琥珀様が来ても、私は交換に応じません」
「枷に繋がれたお前が、何を選べる」

 そのとおりだった。
 傷つかないことと、自由であることは違う。

 母と砂都は、もう助かった。それだけは確かだ。
 砂都がこれ以上砂鉄を飲まされることもない。
 母が次の娘を産めと迫られることもない。
 ならば私がここで死んでも、契約の目的は果たされている。

 ただ、もしも叶うなら、名前も残らなかった彼女たちの分まで、この仕組みを終わらせたいと思った。

 私の願いはそれだけだったはずなのに、胸の奥に残ったものは消えなかった。
 もう一度、あの屋敷で朝を迎えたい。廊下で琥珀に会い、眠れたかと訊かれたい。
 市場を歩き、年齢を訊いて呆れたい。
 契約が終わったあと、自分がどこにいたいのか。今なら答えられる気がした。

 水位が鎖骨へ届く。

「そろそろだ」

 当主が現れ、格子の前に立った。

「妖狐が来たら水を抜いてやろう」
「……来ません」
「妖狐は、お前を盾にしただけだと言ったな?」
「それ以外に私を傍に置く理由はありません」
「なら、来なくても構わぬはずだ」
「……」
「来てほしくない、の間違いではないか」

 唇を噛む。
 来てほしくない。けれど、会いたい。

「……琥珀」