鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 身震いを覚えるほどの身体の冷たさに目が覚める。
 水音に視線を落とすと、腰まで水に浸かっていた。

 身じろぎをすると、手首と足首にはめられた鉄の枷が、ガチャンと音が鳴り、見上げれば、そこから伸びた鎖が、頭上の太い木組みに固定されている。

 石造りの水牢には、細い水音が絶えず響いていた。
 流れ込む水は少しずつ嵩を増し、立ち上がっていなければ口元まで届く。
 刃も炎も通らない身体でも、息は止まる。

 鎖を引く。木組みは軋みもしない。手首を捻っても、枷は皮膚を傷つけない。
 抜ける隙間もできない。

 歴代の鉄姫が使われてきた水牢なのだろう。
 壁には古い鎖の跡がいくつも残っていた。

「傷ひとつ付かぬ化け物が、水には勝てぬか」

 格子の外で見張りが笑う。

「……琥珀様は来ません」
「来るさ。正式な祝言まで挙げようとした女だ」
「私ごとき人間に、価値などあるわけがないでしょう!!」
「お前がそう思いたいだけだろう」
「っ……!」
「こちらの要求に従わなければ、水門を開いて鉄姫を沈める。と伝えてある」

 どうか……どうか来ないでほしい。
 彼がきてしまったら、私が彼にとっての弱点だと証明されてしまう。

「妖狐がきたら、どうしてやろうか。人質がいれば狐火も使えないだろう」

 祝言の席から花嫁が消えた時、琥珀はどんな顔をしただろう。

 庇われた時のことを思い出す。
 刃が通らないと知っていて、それでも私を引き寄せた。
 あの時の腕の強さを思い出す。

「お前を盾に、毛皮を剥いてやろうか」

 男たちの笑い声が、水牢に響く。

 一族は、歴代の鉄姫を殺す方法も、従わせる方法も知っている。
 刃に強かった女たちも、毒や縄には抗えなかった。
 寝所で標的を殺したあと、その場で護衛に取り押さえられ、戻らなかった鉄姫も多い。

 お前だけが特別なのだと、当主は何度も言った。
 何代もの女が飲み込んだ鉄が、ようやく完成したのだと。
 完成品でも、水の中ではまるで砂が水を吸ったように、身体が重く、何もできない。

 かつてここへ繋がれた女たちも、同じように水位を見ていたのだろうか。
 標的を殺せなかった罰として沈められた者もいたかもしれない。

 水が胸へ届く。冷たさで歯が鳴った。