「砂都。今は支度を」
母に促され、砂都が唇を結ぶ。
私の髪へ簪を挿す指が、わずかに震えていた。
庭先を妖狐の侍女が横切る。手にした白布を一度だけ翻した。
手筈どおり。
客殿の裏手には、母と砂都を保護するための通路がある。
祝言の支度を終えた二人を侍女が案内し、一族の目から引き離す。
「よくやった、鉄姫」
背後から当主の声がした。
祝いの装束を纏っていても、私を見る目は昔と変わらない。
「妖狐の長に気に入られ、正式な妻にまでなるとはな」
「お褒めにあずかり、光栄です」
「輿入れ以降、なかなか任務の報告がこないからどうなることかと思ったが……」
母の手が止まった。
「今度こそ喉を掻き切れ」
「……もし、失敗したら……」
「母と妹がどうなるか、忘れたわけではあるまい」
砂都の肩が跳ねる。
当主は、まだ知らない。
廊下の奥では、琥珀の侍女が二人を連れ出す機会を窺っている。
「姉さま」
砂都の手が、袖の下で私の指を掴んだ。
「大丈夫」
「また、それ」
「今度は、本当」
「妖狐の長は、怖くないの?」
「初めは、怖かった……」
「今は?」
答える前に、母が砂都の肩へ手を置いた。
「その話は後で聞きましょう」
母に促され、砂都が唇を結ぶ。
私の髪へ簪を挿す指が、わずかに震えていた。
庭先を妖狐の侍女が横切る。手にした白布を一度だけ翻した。
手筈どおり。
客殿の裏手には、母と砂都を保護するための通路がある。
祝言の支度を終えた二人を侍女が案内し、一族の目から引き離す。
「よくやった、鉄姫」
背後から当主の声がした。
祝いの装束を纏っていても、私を見る目は昔と変わらない。
「妖狐の長に気に入られ、正式な妻にまでなるとはな」
「お褒めにあずかり、光栄です」
「輿入れ以降、なかなか任務の報告がこないからどうなることかと思ったが……」
母の手が止まった。
「今度こそ喉を掻き切れ」
「……もし、失敗したら……」
「母と妹がどうなるか、忘れたわけではあるまい」
砂都の肩が跳ねる。
当主は、まだ知らない。
廊下の奥では、琥珀の侍女が二人を連れ出す機会を窺っている。
「姉さま」
砂都の手が、袖の下で私の指を掴んだ。
「大丈夫」
「また、それ」
「今度は、本当」
「妖狐の長は、怖くないの?」
「初めは、怖かった……」
「今は?」
答える前に、母が砂都の肩へ手を置いた。
「その話は後で聞きましょう」



