鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 琥珀が庭の白い花を一輪手折り、こちらへ差し出した。

「祝言に飾れ」
「花の名前は」
「知らん」
「ご自分の庭に咲いているのに?」
「気に入ったなら、名など知らずともよいだろう」
「琥珀様は、長生きな割に知らないものが多いのですね。年齢も、花の名も」
「返せ」
「嫌です。気に入ったので、いただきます」

 花を胸元へ隠すと、琥珀が呆れたようにこちらを見る。
 その顔を見て、笑いそうになった。

「この花、祝言の日まで持つでしょうか」
「枯れたら、また摘めばいい」
「それは、同じ花ですが、まったく同じではありません」
「同じに見えるが」
「琥珀様には分からないのですか」
「分からぬ。だが、お前が今持っている花は覚えておく」

 部屋へ戻り、白い花を水へ挿す。
 この屋敷で過ごした時間は、輿に乗ってきた日には想像もしなかったものばかりだった。

 殺すはずだった男の傷を手当てし、年齢を尋ね、花を取り合う。
 契約が終わっても、こんな朝が続けばいい。
 それを望みと呼んでよいのか、まだ分からなかった。

 いっそ、連れ去ってくれたら。
 口にしてくれたなら。
 生まれて初めて湧いた、自分の望みだということを、認めてしまうことが恐ろしい。