鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 衣装や道具を揃えるため、琥珀と市へ出る。
 人と妖狐の商人が隣り合って店を出し、子供たちが種族の違いなど気にも留めず走り回っていた。

「随分と、聞いていた話と違います」
「人は妖狐を恐れ、妖狐も人を警戒する。離れていれば、都合のよい噂ばかり育つ」
「琥珀様も、人は皆卑怯だとお思いでしたか」
「今も思っている」
「私も人ですが」

 人の里では、妖狐の領地へ入れば二度と戻れないと聞かされていた。
 けれど店先には、人の商人が妖狐の客へ値段を吹っかけ、妖狐の女が笑いながら値切っている。

「だから警戒している」
「一緒に市へ出ておいて?」
「目の届く場所へ置いているだけだ」
「便利な言い方ですね」

 狐耳を出した幼子が、私の前で転ぶ。
 大きなお揚げのような耳を、ぺしょっと倒しながら泣くのを我慢している。

「いたい……」
「大丈夫?」

 しゃがみ込んで手を差し出すと、幼子は少し迷ってから私の指を握った。
 幼子の膝についた土を払い、母親のもとへ返す。

「怖くないのか」
「何がですか」
「妖狐の子だ」
「子供は子供でしょう」
「人の里では、そう教わらなかったはずだが」
「妖狐は人を騙し、喰らうものだと教わりました」

 事実、そういった妖はいるのだろう。
 それが妖狐なのか、それ以外の妖なのかはわからないけれど。

「ですが、今の子は転んで泣いていただけです」
「教えられたことより、自分の目を信じるのか」
「琥珀様を殺し損ねてから、そうすることにしました」
「それは、よい心がけだ」