鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 屋敷へ戻ると、琥珀に部屋へ呼ばれた。
 燭台の灯りが一つだけ灯された部屋は、いつもより静かだった。
 琥珀は脇息にもたれず、まっすぐこちらへ向き直る。

「座れ」
「何か、契約に不備がありましたか」
「鉄姫は、どうやって作られる」

 唐突な問いだった。

「一代で作るものではありません」
「どういう意味だ」
「母も、祖母も、その前の女たちも、幼い頃から砂鉄を飲まされました。娘が生まれれば、その子にも同じものを飲ませる。何代も繰り返すうちに、刃に強い娘が生まれるようになったのです」
「なぜ、女だけだ」
「女の身体でなければ、次の娘へ鉄を繋げられないと、一族は申します。それに、花嫁として寝所へ入るには、女の方が都合がよいので」

 ただの興味本位からの問いだろうか。
 このような女の作り方など、知ったところで一族以外での再現などできるはずもない。

「歴代の鉄姫も、お前のように刃を弾いたのか」
「いいえ。浅い傷なら耐えられる。斬られても、すぐには死なない。その程度だったと聞いています」
「その程度で、暗殺へ送ったのか」
「標的へ刃を届かせるまで生きていればよいのです。寝所で相手を殺し、そのまま護衛に殺された者もいます。失敗して、戻らなかった者も」
「生きて帰ることは、求められていなかったということか」

 幼い頃、屋敷の奥に並ぶ位牌を見たことがある。
 刻まれていたのは、標的となった男たちの名と、暗殺が成った日だけだった。

「標的を殺せれば、鉄姫の生死は問われません」
「何人、戻らなかった」
「分かりません」
「記録もないのか」
「成功した暗殺の名は残ります。鉄姫の名は残りません」

 嫁いだ娘の名は、どこにもなかった。
 おそらく、私もそうやって死んでいくのだろう。

「母が教えてくれた名も、幾人かだけです。母の姉も、その一人でした」
「お前の伯母か」
「十五で嫁ぎ、標的は殺しました。伯母も、その夜に」