鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 数日後、琥珀は境の村を視察するため、連れられ屋敷を出た。
 先日の襲撃を受け、護衛は増えている。
 それでも琥珀は、私を自分のすぐ側へ置いた。

「また刺客が来たら、前へ出ろ」
「はい」

 前回と同じ役目。
 村へ続く山道へ入ったところで、木立の奥から矢が放たれた。

「鉄姫、受けろ」

 琥珀の声と同時に前へ出る。
 胸元へ当たった矢尻は皮膚を貫けず、軸だけが折れた。

 空気を裂くような音とともに、続けて二本、三本と矢が向かってくる。
 私は動かず、琥珀へ届く矢を身体で受けると、いずれも刺さることなく折れるか、地面に落ちるだけ。

 背後から腕が伸びると、頬の横を青白い炎が走る。
 ゴウッ!という火の音のすぐ後に、木立の中から男たちの声が上がった。

「ぐあぁぁぁっ!」
「火がっ!うわぁぁあ」

 前回と、同じ。
 違ったのは、琥珀の腕が頬へ触れそうなほど近かったことだけ。
 最後の矢が折れた時、こめかみから流れた汗が頬を伝い、琥珀の手首へ落ちた。

「……狐火が熱いか?」
「いいえ」
「ならば、その汗は何だ」
「これは……」

 袖で頬を拭う。

「たまたま……身体が勝手に出すだけです」
「怖いのか」
「どうでしょう」

 振り返ると、琥珀が妙な顔をしていた。

「刃は通らぬのだろう」
「通りません」
「それでも?」
「怖いと感じることと、盾になること。それは別です」

 大きく、息を吐き、呼吸を整える。
 おそらく、ほとんどの刃は私の身体に傷一つ付けることなく、刃毀れをするか折れるかするだろう。
 けれど斧なら?鉈なら?あらゆる刃を試したわけではない。

「目を閉じたり、逃げたりはしません。盾の役目には差し支えありません」
「いつから、そうやって耐えている」
「……いつから……?覚えていません」

 再び歩き出した琥珀は、先ほどまでより僅かに速い。
 私はいつもどおり、その後ろへ従った。