鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

 刺客は琥珀の配下に取り押さえられた。
 宴は中断され、人の側の名代が青ざめた顔で何度も頭を下げている。
 琥珀は私の肩から手を離すと、刃が当たり、わずかに着物が綻んだ箇所へ目をやった。

「傷は」
「ありません」
「そうだったな」

 確かめるというより、自分が使った盾の状態を確認するだけの声。
 側近の妖狐が駆け寄り、折れた刃と私を交互に見る。

「琥珀様。まさか、花嫁を盾になさったのですか」
「本人とそう契約した」
「……手当は」
「不要だ。なかなかに面白い娘だろう?」

 側近の視線が、私へ向く。

「よろしいのですか」
「はい」
「ですが」
「琥珀様が無事なら、契約どおりです」

 琥珀が私を見る。

「腹は立たぬのか」
「なぜですか」
「女を盾にした」
「盾になると申し上げました」
「自分から立つのと、俺に引き寄せられるのは違うだろう」

 何が違うのか、私には分からない。
 殺すために寝所に向かうのと、盾として使われること。
 どちらもさして変わりはないのだから。

「同じです。どちらでも、刃は私で止まります」

 琥珀の目が僅かに細くなる。

「妙な女だな」
「そうでしょうか」
「普通は、もう少し怒る」
「提案しておいて、あなたが言うのですか?それとも、普通の花嫁をお望みでしたか」
「俺を殺そうとしない女なら、その方が楽ではあった」
「それは、申し訳ありません」

 謝ると、琥珀はなぜか笑った。

 帰りの輿でも、刃を受けた肩に異変はなかった。
 殺される前に殺すことしか使い道のなかったはずの身体が、初めて盾として役に立てた。
 母と妹へ、ほんの少し近づけた。私が考えていたのは、それだけだった。