鉄姫の嫁入り~妖狐の暗殺に失敗し、契約花嫁になりました~

「刃も炎も通らぬ者が側にいれば都合がいい。だが、お前は不死身ではない。分かった上で使う。」
「使う、と言い切るのですね」
「初撃だけ防げれば十分。あとは俺がどうとでもできる」
「なるほど……」
「それとも、曖昧な情けの方がよかったか」
「いいえ。その方が信じられます」

 慈悲で助けると言われるより、よほど安心できた。
 私には盾としての価値がある。
 この妖狐には母と妹を救う力がある。
 どちらかが約束を破れば、契約は終わる。

「それで。盾になる契約ではなく、契約結婚なのですか」
「お前は花嫁として輿入れした。妻が俺の側にいても、誰も不審には思わぬ」
「随分と都合のよい妻ですね」
「互いにな」

 琥珀が目を細めた。
 怒ったのかと思ったが、口元には笑いが浮かんでいる。

「屋敷の者には、何と伝えますか」
「和平のために迎えた花嫁。それだけだ」
「私が刺客だったことは」
「伏せる。お前はただの花嫁だからこそ、油断を誘うのだろう。ならそのままが一番価値がある」

 自分では考えていなかった危険だった。
 里では、私の硬さを知る者しか周囲にいなかった。
 外へ出れば、弱点を探す者が現れる。

「では、私はただの花嫁として、琥珀様のお側に。部屋はどうしますか」
「このまま部屋を使え」
「褥も一つのままですか」
「嫌なら別に敷かせる」

 即答され、なぜか少しだけ調子が狂う。
 動じない自分の方が、この男には慣れているはずだった。

「……不満はありません。同じ褥の方が盾としても都合がよいでしょうし。ただ……」
「ただ?」
「私は花嫁らしい振る舞いを、ほとんど知りません」
「先ほどので十分だったが」
「……それと、これとは別です」

 顔が熱くなる。
 琥珀は、明らかに楽しんでいた。