「耳は触らせんぞ」
「……何も言ってませんが」
気を付けていたのに、見透かされてしまった。
手を引くと、九本の尾はすぐに妖狐の背後へ戻っていく。
名残惜しさを隠すように、私は膝の上で手を握る。
「契約を記したものは」
「必要か」
「口約束だけでは、破られても証がありません」
「俺が約束を破れば、お前はまた寝首を掻けばいい」
「次は成功するでしょうか」
「無理だな」
「では、書いてください」
言い返すと、彼は呆れた顔をしながらも、紙と筆を用意させた。
墨を磨る音だけが、しばらく座敷に満ちる。
「傷つかないだけで、力があるわけではないのだな」
「はい。腕力は人並みです。拘束されれば逃げられず、毒も効きます。水の中では息もできません」
「ずいぶん素直に弱みを話す」
「隠したまま盾になれば、あなたを危険にさらします」
「俺を殺し損ねた女が、今度は俺の心配か」
「契約しましたので」
妖狐が僅かに口元を緩める。
筆を置く手つきにも、先ほどまでの警戒はもう見えなかった。
「……何も言ってませんが」
気を付けていたのに、見透かされてしまった。
手を引くと、九本の尾はすぐに妖狐の背後へ戻っていく。
名残惜しさを隠すように、私は膝の上で手を握る。
「契約を記したものは」
「必要か」
「口約束だけでは、破られても証がありません」
「俺が約束を破れば、お前はまた寝首を掻けばいい」
「次は成功するでしょうか」
「無理だな」
「では、書いてください」
言い返すと、彼は呆れた顔をしながらも、紙と筆を用意させた。
墨を磨る音だけが、しばらく座敷に満ちる。
「傷つかないだけで、力があるわけではないのだな」
「はい。腕力は人並みです。拘束されれば逃げられず、毒も効きます。水の中では息もできません」
「ずいぶん素直に弱みを話す」
「隠したまま盾になれば、あなたを危険にさらします」
「俺を殺し損ねた女が、今度は俺の心配か」
「契約しましたので」
妖狐が僅かに口元を緩める。
筆を置く手つきにも、先ほどまでの警戒はもう見えなかった。



